石の肺 僕のアスベスト履歴書 (岩波現代文庫)

著者 :
  • 岩波書店 (2020年10月16日発売)
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感想 : 4
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 建物を壊すときにアスベストがあったためその除去作業をしなければいけない、そんなことを知ったのはいつ頃からだったろうか。
 ただ断片的にしかアスベストのことは知らなかったし、とりわけこれだけ沢山の人たちが長年被害に苦しんでいることは本書を読んで初めて知った。

 熱に強い、火に燃えにくい、引っ張っても切れにくい、絶縁性が高くて電気を通しにくい、しかも外形はフレキシブルで柔軟性がある。   
 確かに「奇跡の物質」と呼ばれ重宝されて使われてきたことが分かる利便性で、それだけにある時期までは積極的に使用が勧められてきたほどであった。それが肺などに重大な疾患を引き起こしてしまう。
 本書は、かつて電気工として働いていた時にアスベストの危険性を知らずに曝露してしまい健康被害に今なお苦しむ、作家である著者唯一のルポルタージュである。

 著者が本書を書くに至ったのは、危険な仕事に携わなければならない誰か、それら誰かの声を、労働現場の実際を知っていてその後作家となった自分が語ることが必要だと思ったからと言う。
 当事者ならではの体験がリアルに描かれるとともに、アスベスト被害を訴える人々や医療関係者、アスベスト関係企業に勤めていた人たちに取材し話を聴いていくことで、この問題の孕む重要性や、末端労働者に皺寄せがいき、また救済が届かない社会的矛盾に気付いていき、そして声高ではないが、この問題を事実上放置してきた国の怠慢に批判が向けられる。

 本書の元版が刊行され10年以上が経ち、国賠訴訟に判決が出されるなどした一方、本書に登場した人々を含め死亡者が増加している厳しい状況が続いている。
 原因等は異なるがコロナ禍に社会が翻弄されている現在、時宜を得た再刊である。

 

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年12月31日
読了日 : 2020年12月31日
本棚登録日 : 2020年12月31日

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