日本の歴史授業で教えられてきた四大文明説に、著者は疑問を呈する。若き日に探検地として訪れたアンデスの地に"文明"と呼び得るものがあったのではないかと考えたからである。
では、そもそも「文明とは何か」。論者により説はあるが、著者は、「効果的な食料生産」と「大きな人口」という条件に着目する。
そして、ここでのキーワードとなるのは、"ドメスティケーション"である。野生植物の栽培化、野生動物の家畜化という、人類によって行われた自然環境の改変である。環境の改変、新たな問題の発生、解決の探究、これらの繰り返しにより、文明が誕生し、発展したのではないかと、著者は考える。
また、度々の現地訪問を通しての実体験から、世界の中で、「高地文明」と呼べる文明があると著者は主張する。それが本書副題の、もう一つの「四大文明」の発見である。
メキシコのトウモロコシ、アンデスのジャガイモ、、チベットのチンコー(オオムギの一種)、エチオピアのテフ、これら主食となる農耕植物の栽培により農耕技術も発展し、大きな人口を支えることが可能になり、大都市が誕生したことを、様々な資料を基に論証していく。
高地というと厳しい環境をついつい連想してしまうが、実際の気象を数値で示されると決してそんなことはないこと、ドメスティケーションを補助線にすると、栽培植物、家畜について新しい見方ができることを教えられた。
著者の主たるフィールドであるアンデスの説明に比して、メキシコはやや薄く、チベット、エチオピアについては駆け足の記述なので、4つを高地文明と並列されてしまうと少し疑問は感じるが、興味を惹かれる大きな仮説であることは間違いない。
時に自説に対する疑問や批判に対して厳しい応答がなされるが、理系の人らしい明晰な文章で、たいへん読みやすい。
- 感想投稿日 : 2021年8月2日
- 読了日 : 2021年6月26日
- 本棚登録日 : 2021年6月26日
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