本書の対象とするところは「序」に簡潔にまとめられている。「十字軍」とは何であったのか。その本質はキリスト教会の敵と戦うことによって得られる贖罪であり、その運動は1095年のクレルモン教会会議でローマ教皇ウルバヌス二世による呼びかけに始まり、1798年のナポレオンによるマルタ島占領に終わる。そして、空間的には中近東や北アフリカのみならずヨーロッパ各地で展開された。
十字軍に参加した者にはカトリック教会の認定により十字軍特権が与えられた。贖罪、不在の間の財産や家族の身柄の保護などである。
そして、十字軍国家とは、十字軍士によって樹立された国家で、大別4つのカテゴリーが存在する。
①第1回十字軍の結果として建国された4つの国家、エルサレム王国、アンティオキア侯国、エデッサ伯国、トリポリ伯国
②第3回十字軍の過程で制圧され、その後王国としての認可を受けたキプロス王国
③第4回十字軍の結果、ビザンツ帝国領に樹立された十字軍国家群で、ラテン帝国、テサロリキ王国、そして「モレア」と呼称されるペロポロネソス半島とその周辺域に成立したアカイア侯国など
④騎士修道会によって樹立された国家で、ドイツ騎士修道会によるプロイセン地域における国家、聖ヨハネ修道会によるロードス島、そしてマルタ島におけるもの
以上のほか、本書では十字軍国家ではないが、これらと関わりの深いものとして、キリキアのアルメニア王国、カタルーニャ傭兵団について、補章で取り上げられる。
本書は十字軍国家の成立、発展、衰退・滅亡の歴史を通時的に追ったもので、十字軍の歴史については最低限の記述しかない。十字軍については塩野七生氏の本や山内進『北の十字軍』などを読んでいたので良かったが、ある程度の基礎知識を持っていないと、正直あまり面白くは読めないかもしれない。
王などの支配者がいつ即位をし、どのように外交、戦争をし、そしてどうなったかについてスポットを当てており、固有名詞を知らない人名、地名が延々と続くので、読み進めるのがかなりきつい。
とは言っても、通常の世界史の本ではあまり触れられることのない地域や時代について詳しく取り上げられており、特に、キプロスやアルメニア、ラテン帝国とギリシャ周辺域のことなどは初めて知るようなことが多く、知的好奇心を大いにそそられた。
- 感想投稿日 : 2023年8月16日
- 読了日 : 2023年8月15日
- 本棚登録日 : 2023年8月16日
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