日本文学100年の名作 第6巻 1964-1973 ベトナム姐ちゃん (新潮文庫)

制作 : 池内紀  松田哲夫  川本三郎 
  • 新潮社 (2015年1月28日発売)
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感想 : 7
5

日本文学セレクト中短編集の第六巻。1964年から1974年に発表された中短編12編をセレクト。この時代になると既読の作品が増えた。戦後を経て、高度経済成長期の真っ只中、幻想的な作品、戦中を省みる作品、平穏な日常を描いた作品が目立つ。

川端康成『片腕』。『眠れる美女』のようなフェティシズムの香りがする幻想的な物語である。ある娘から片腕を借りた私…読み進むうちに異常な情景が見えてくるようだ。

大江健三郎『空の怪物アグイー』。既読の作品。これも、また幻想的な物語。現実と虚構の狭間で苦しむかのように生きる作曲家D。彼に雇われた『ぼく』は次第に彼に影響されていく…

司馬遼太郎『倉敷の若旦那』。寓話的な時代小説。倉敷の町人志士の若旦那が有ろう事か長州藩士となり、倉敷を襲う事になるのだが…短編であるのが、勿体無いくらい面白い。

和田誠『おさる日記』。これも既読の作品であった。小学校低学年の男の子が綴った日記形式のショート・ショートである。読み進みながら、どうなるのかという期待感を感じ、見事なオチにヤられたと思った。

木山捷平『軽石』。どこかホッとするような柔らかな日常を描いた私小説。この感じはどこかで読んだことがあると、思い出してみると、谷口ジローの『歩くひと』であった。

野坂昭如『ベトナム姐ちゃん』。これも既読。退廃的で哀しい物語。横須賀のドブ板通りのバーのホステス、弥栄子がベトナム帰りの米兵に愛情を注ぐ理由は…

小松左京『くだんのはは』。これも既読。一時期 、小松左京の作品にハマった時期があるが、その中でも記憶に残る作品。終戦間際を舞台にしたホラー小説。なかなか正体が分からぬ中で感じる恐怖と興味、『くだん』の正体を知った時の恐怖、そして、ラストの恐怖と読者を釘付けにする見事な構成の作品である。

陳舜臣『幻の百花双瞳』。冒頭で刑事の取り調べを受ける主人公の丁祥道…コック見習いの丁祥道の成長を描きながら、同時に進行する『百花双瞳』という幻の点心を巡るミステリーとサスペンス。面白い。

池波正太郎『お千代』。奇妙な味わいの人情噺。大工の松五郎が可愛がる猫の『お千代』。兎に角、『お千代』命の松五郎は妻帯する事を拒むのだが…

古山高麗雄『蟻の自由』。自らを蟻に例え、南国の戦場で届くはずのない手紙を綴る主人公。死を願う主人公の暗澹たる気持ちが伝播するような作品。

安岡章太郎『球の行方』。大人の冷静な視点で、子供の世界を見事に描いた、読んでいると子供の頃の記憶を蘇ってくるような作品。今では遠い昔の懐かしい世界。

野呂邦暢『鳥たちの河口』。人生のレールを外れてしまった男が、河口の干潟で渡り鳥と触れ合いながら、新たな人生の方向を見出していく、再生の物語。干潟の風景描写と男と妻の心の交流が見事に描かれている。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日本
感想投稿日 : 2015年2月5日
読了日 : 2015年2月5日
本棚登録日 : 2015年2月3日

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