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謎と闇に覆われた恐怖の未解決ミステリー (鉄人文庫)
- 鉄人ノンフィクション編集部
- 鉄人社 / 2024年10月29日発売
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鉄人ノンフィクション編集部『謎と闇に覆われた 恐怖の未解決ミステリー』鉄人文庫。
鉄人ノンフィクション編集部による事件物のノンフィクションが『戦前の日本で起きた35の怖い事件』と共に刊行。
様々な未解決事件79件が紹介される。事件そのものは興味深いのだが、『戦前の日本で起きた35の怖い事件』と異なり、結末や答えが無いだけにもどかしさを感じる。
昔から現在に至るまで全国各地で実に多くの失踪事件が起きていることに驚く。男女や年齢を問わず、一瞬で姿が見えなくなったり、事件に巻き込まれたようなケースがあったりと失踪事件のパターンは様々である。
未解決の異常な殺人事件も世界各国で起きている。防犯カメラに映った怪しい人物、殺害現場に残された不可解な証拠品、身元不明の遺体と多くの謎が残されている。
謀殺や他殺が疑われる世界的画家や政治家、俳優などの怪死事件、ポルターガイスト現象、UFO目撃などの怪事件が紹介される。
本体価格836円
★★★
2024年11月4日
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戦前の日本で起きた35の怖い事件 (鉄人文庫)
- 鉄人ノンフィクション編集部
- 鉄人社 / 2024年10月29日発売
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鉄人ノンフィクション編集部『戦前の日本で起きた35の怖い事件』鉄人文庫。
明治、大正、昭和の三つの時代に亘り、戦前の日本で起きた凶悪犯罪、悲惨な事件を紹介するノンフィクション。当時の写真や新聞記事などが多数掲載され、リアリティを感じる。
有名なところはでは、津山三十人殺し、三毛別羆事件、福田村事件、阿部定事件が取り上げられている。
津山三十人殺しは横溝正史の『八つ墓村』のモデルとなった事件であり、戦前の日本で起きた大量殺人事件では最も犠牲者が多い、猟奇的な大量殺人事件である。
三毛別羆事件は戸川幸夫の『羆風』、吉村昭の『羆嵐』、木村盛武の『慟哭の谷』のモデルとなった最悪の獣害事件である。
福田村事件は最近映画にもなっており、関東大震災の際の言流布が事件を引き起こす切っ掛けとなった悲惨な事件である。
阿部定事件は大島渚が監督を務めた『愛のコリーダ』のモデルとなった事件である。
本体価格935円
★★★★
2024年11月3日
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罪の境界 (幻冬舎文庫)
- 薬丸岳
- 幻冬舎 / 2024年10月10日発売
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薬丸岳『罪の境界』幻冬舎文庫。
ラストに感じる救いの心と明らかになる残酷な真実に打ちひしがれる長編ミステリー小説。
何時の時代にも何度か起きる無差別通り魔事件。最近ではネットで主犯に操られ、闇バイトで集められた金に困った素人たちが強盗殺人事件を起こしている。全くもってイヤな時代になったものだ。他人の生命の重さなど解らない馬鹿な犯罪者たちが身勝手な理由で凶悪犯罪を行なっているのだ。親が悪いのか、教育や学校が悪いのか、社会が悪いのか……
本作ではそんな身勝手な理由で起こされた無差別通り魔事件の被害者と加害者の両者の側から事件の悲惨さと重大さを描いている。
大手出版社に勤務する東原航平と付き合っていた学校の事務員、浜村明香里は渋谷のスクランブル交差点で無差別通り魔事件に巻き込まれ、犯人の男に斧で身体を17ヶ所も斬られる。瀕死の状態で路上に倒れた明香里を庇い、生命を救った飯山晃弘は男に斬られて絶命する。晃弘が最後に遺した『約束は守った……伝えて欲しい……』という言葉……
虐待を繰り返す母親を殺害した過去を持つフリーライターの溝口省吾は無差別通り魔事件の犯人、小野寺圭一が自分と同じ虐待を受けていたことを知り、興味を持つ。省吾は小野寺圭一の過去と無差別通り魔事件をノンフィクションにまとめようと生い立ちを辿る……
明らかになる加害者と被害者、それぞれの過去……
本体価格870円
★★★★★
2024年11月2日
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青屍 警視庁異能処理班ミカヅチ (講談社タイガ)
- 内藤了
- 講談社 / 2024年10月16日発売
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内藤了『青屍 警視庁異能処理班ミカヅチ』講談社タイガ。
シリーズ第6弾。
さらりと読めるホラー警察小説。今回は悪魔憑きの赤バッチこと極意京介の妹で、全身の臓器が腐敗する奇病と闘う真理明が事件の謎を解き明かす鍵を握る。
今回も異能集団のミカヅチ班と三婆ズが怪しい事件の真相に迫る。
上野恩賜公園で全身61ヵ所に穴が空いた男性の変死体が発見される。それに続いて発見された女性の蒸焼き死体。2人とも中世のヨーロッパで使われた拷問具を使って殺害されたと思われた。
霊視の青年・安田怜が目撃した蒼馬に跨る異界の騎士の正体は……
本体価格680円
★★★★
2024年10月30日
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100万回死んだねこ 覚え違いタイトル集 (講談社文庫)
- 福井県立図書館
- 講談社 / 2024年10月16日発売
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福井県立図書館『100万回死んだねこ 覚え違いタイトル集』講談社文庫。
県立図書館が本を刊行するとは何とも珍しいと思った。タイトル通り、福井県立図書館の司書のレファレンスに持ち込まれた図書の覚え間違いタイトル集である。
図書の間違いタイトルに続き正しいタイトルがイラスト入りで紹介されるというパターンの内容であり、短時間で読めてしまう。
栞代わりなのか、ご丁寧に『100万回生きたねこ』に斜線を引き、『100万回死んだねこ 覚え違いタイトル集』と書き換えた福井県立図書館の図書貸出票が付いており、思わず笑った。
タイトルにある『100万回死んだねこ』なんて、どこが間違いか判らなかった。正解は『100万回生きたねこ』だったようだ。『八月の蝉』などは、あってもおかしくないタイトルだ。
『ブラック・ジャパン』は間違いで、ますい志保の『ブラック・シャンパン』が正解とされていたが、今から40年程前の赤瀬川隼の小説に『ブラック・ジャパン』というのが存在している。もしかしたら、本当は『ブラック・ジャパン』が読みたかったのかも知れない。自分も読んだことがあるのだが、『ブラック・ジャパン』は陸上競技界で日本国籍の黒人選手が大活躍するといった話で、サニブラウン・アブデル・ハキームやケンブリッジ飛鳥などが活躍する現代日本の陸上競技界を予知していたようなユーモア小説である。
本体価格750円
★★★★
2024年10月30日
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羆吼ゆる山 (ヤマケイ文庫)
- 今野保
- 山と溪谷社 / 2024年10月16日発売
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今野保『羆吼ゆる山』ヤマケイ文庫。
1990年に朔風社から単行本が刊行され、1996年に中公文庫から文庫版が刊行されたのを最後に長らく絶版になっていた名著の復刊。
中公文庫で、そのタイトルを知った時には既に絶版になっており、古本屋なども探したのだが、一度も目にすることはなかった。
まだ製炭業が盛んだった大正から昭和の戦前、戦後の北海道の奥地での羆と人間の死闘を描いた著者の自伝的な側面を持つ作品である。
解説は河崎秋子。
自然豊かな北海道の風景描写に加え、人間が羆に挑むことの恐ろしさが伝わる数々のエピソードは非常に読み応えがある。
近年、北海道ばかりでなく、本州でも熊による死傷者が増加している。熊は山里ばかりでなく、町中にも姿を見せ始めているのだ。自分が住む地域では熊は出没していないが、隣の地区などでは熊の目撃が相次いでおり、近いうちに熊が近所に姿を見せることは間違い無い。
人間が山の手入れを怠り、山を荒らした挙句に太陽光発電のソーラーパネルの設置や新道の開発などで獣たちの居場所を奪ったことと里山という緩衝地帯が無くなってしまったことが、熊が人里に現れる一因になっているのだろう。
父親が製炭業に関わっていたことから、幼少期から北海道の山中で生活を送っていた著者は幼い頃から羆は身近な存在で、その恐ろしさも充分知っていた。著者は少年の頃から父親の猟銃を使って、羆と対決し、その腕を磨いていく。
著者自身の体験の他に、著者の近所に住んでいた七郎と八郎の兄弟が羆と死闘を繰り広げる話、羆撃ち名人の命を奪った赤毛や銀毛と呼ばれた手負い羆の恐怖、アイヌ伝説の猟師である仙造による羆猟の話などが描かれる。
定価1,210円
★★★★
2024年10月29日
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JK IV (角川文庫)
- 松岡圭祐
- KADOKAWA / 2024年10月25日発売
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松岡圭祐『JK IV』角川文庫。
シリーズの第4弾。
有坂紗奈の果てることの無い復讐の物語が描かれる。相変わらずハードなバイオレンスシーンが描かれるが、今回はミステリアスな幕開けで物語が始まる。
傷付いた渡邊絵夢という名の19歳の女性を保護し、一緒に暮らし始めた工場勤務の李沢直也は絵夢と結婚しようと絵夢を自分の姉と両親に紹介し、次に絵夢の両親に会おうとしていた。絵夢は直也が両親に合う前に直也のことを両親に話して来ると言って、呉市に里帰りする。
しかし、直也の元に絵夢が投身自殺したらしいと連絡が入り、慌てて呉市に向かうと3人の公安刑事が近付いて来る。公安刑事たちは直也に渡邊絵夢の正体は有坂紗奈で、K-POPダンスの人気ユーチューバー、EEこと江崎瑛里華であることを伝える。有坂紗奈は、川崎市立懸野高校1年生の頃、地元の非行少年グループに襲われ、両親を惨殺され、自身も暴行された挙句、チンピラに輪姦島として悪名高い沖縄県の冨米野島に売られ、そこから生還したと言うのだ。
有坂紗奈は何故、渡邊絵夢を名乗るのか……直也の元から突然姿を消した理由は……
本体価格720円
★★★★
2024年10月28日
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珈琲屋の人々 遠まわりの純情 (双葉文庫)
- 池永陽
- 双葉社 / 2024年10月9日発売
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池永陽『珈琲屋の人々 遠回りの純情』双葉文庫。
シリーズ第7弾。
毎度、毎度似たようなパターンに飽きて来たし、宗田行介と辻井冬子の賞味期限も既に切れてしまったような気がする。
自らの犯した罪を許せずに自らの幸せに背を向けて生きる宗田行介と未だに行介が好きでたまらない辻井冬子のじれったい恋の行方と、悪い男に騙された訳ありの女性や女性との関係に悩む情けない男性が『珈琲屋』に持ち込む数々の相談事や事件が描かれるのは、何時ものパターン。
どんな理由があっても殺人はいけないことだと思うし、離婚のために不倫するなど言語道断。最初は行介と冬子の気持ちが解からんでもなかったが、シリーズを重ねるうちに2人が幸せになれないのは当たり前ではないかと思うようになった。というのが賞味期限切れという意味だ。
過去に犯した殺人の贖罪の念に苛まれ、自らの幸せに背を向けて暮らす喫茶店『珈琲屋』の店主である宗田行介。かつて、行介の恋人だったが、親に言われて止むなく結婚し、行介が忘れられずに出戻って来た辻井冬子。町内会一のプレイボーイで名を馳せる島木。この3人を中心に、人を殺したことで、何故か様々な相談を持ち込まれる『珈琲屋』を中心に展開される人間模様。
今回は『珈琲屋』に母親が書いたと思われる手紙
を携えて、僅か5歳の今日子と名乗る幼女が迷い込んで来る。冬子は今日子が行介の隠し子ではないかと疑うが、6年前といえば行介はまだ刑務所に収監されており、疑いの目は島木に向けられる。島木も身に覚えがあるようで、今日子の母親が誰かを探ろうとするが……
本体価格780円
★★★
2024年10月28日
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警視庁科学捜査官 難事件に科学で挑んだ男の極秘ファイル (文春文庫)
- 服藤恵三
- 文藝春秋 / 2024年10月9日発売
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服藤恵三『警視庁科学捜査官 難事件に科学で挑んだ男の極秘ファイル』文春文庫。
偶然にも読んでいる最中に放送されたNHKの『新プロジェクトX』に著者が出演していて驚いた。
地下鉄サリン事件、和歌山カレー事件、ルーシー・ブラックマン事件など日本を震撼させた重大凶悪犯罪を科学捜査により、僅かな痕跡から多くの謎を解き明かし、後に日本初の『科学捜査官』となった著者が記録したノンフィクション。
もう少し一つ一つの事件の裏側が詳しく描かれるかと思ったのだが、著者自身の出世の歴史と著者が如何に警察組織内で重宝され、どんな事件に関わったかが自慢気に描かれているばかりで、がっかりした。
本体価格820円
★★
2024年10月27日
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山狩 (光文社文庫)
- 笹本稜平
- 光文社 / 2024年10月8日発売
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笹本稜平『山狩』光文社文庫。
2021年に逝去した笹本稜平の最後の小説ということで大いに期待したのだが、残念ながら並みの出来であった。
地方の権利者による警察への圧力が正義を歪め、再び警察の正義を取り戻すために高い志を持つ警察官たちが立ち上がるという在りがちなストーリー。タイトルの『山狩』が少し浮いているような気がする。
家族と千葉の伊予ヶ岳で登山を楽しんでいた千葉県警生活安全課の小塚俊也は山中で若い女性の死体を発見する。千葉県警により事件性は無く、事故死か自殺と思われていたが、死の直前までストーカー被害に遭っていたことが判明する。
女性は村松由香子という24歳の女性で祖父が元警察官であった。由香子のストーキングしていたのは地元の名家の御曹司の門井彰久で、由香子が山に向かう時に付近で目撃されていたのだが、不審なアリバイ工作を行い、父親の権力を使って県警の上層部に圧力を掛けて取り調べを拒否し、行方をくらませる。
小塚は警察内部でも敵か味方か判然としない中、脅しに屈しない県警の山下正司、北沢美保と女性の遺族と共に真相解明に立ち上がる。しかし、銃撃事件が発生すると事態は混迷し、被害者の遺族も姿を消し、舞台は女性が死んだ山へと……
本体価格900円
★★★
2024年10月25日
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スバらしきバス (ちくま文庫 ひ-33-1)
- 平田俊子
- 筑摩書房 / 2024年10月11日発売
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平田俊子『スバらしきバス』ちくま文庫。
詩人である著者がバスに乗り続けた日々を描く乗り物エッセイの名著。
知らない土地でバスに乗るのは非常に勇気がいる。地方、特に田舎に行くと尚更で、バス停に貼ってある時刻表は平日に比べ、土日祝日はかなり間引きされ、果たしてそのバスが定刻通りに来るのか、或いは乗り継ぎのバスや電車に間に合うのか不安になる。何しろ田舎の場合は終点まで真っ直ぐ向かえば15分なのに、一つの路線で広範囲の地域を網羅しようとしてバス停をぐるぐる周るので、終点まで60分以上掛かるのはザラである。
首都圏でも渋滞などで定刻通りに目的地に着くのか、この路線は目的地を通るのかといった不安があるだろう。
著者もこうしたバスに乗ることの不安をデフォルメしながら面白可笑しく表現している。電車やタクシーに比べてバスは目的地までの時間が掛かる反面、その時間を景色を楽しんだり、読書や人間観察に使えるという面白さもあるようだ。
このエッセイを読んでいると、バスの車窓を眺めながら、或いはバス停の名前から妄想を膨らませたりする大らかなバスの時間を楽しむ著者の姿が目に浮かぶようだ。
昨年から書き始めた5年日記によれば、最後にバスに乗ったのは昨年の11月だ。郡山駅前のホテルで行われた会合に出席した帰り道、郡山駅からローカル線に乗り、最寄りの駅からバスに乗った。バスといっても利用者が余り居ないのでワンボックスカーである。どこで降りても一律200円。しかも、当日に限り乗り継ぎが出来るという優れモノなのだ。バスに乗客は自分1人で、見習い運転手1人にルートを教える先輩が1人乗るという多勢に無勢、余りにも不利な状況だった。田舎のポツンと一軒家に移住して来たばかりの自分はバスに30分程乗り、家から500メートル離れたバス停で降りた。真っ暗闇の中を橋を渡り、家に向かって歩きながら、こんな闇夜を歩いていてはタヌキかキツネに化かされそうだななどと考えていた。
本体価格840円
★★★★
2024年10月23日
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サンセット・サンライズ (講談社文庫)
- 楡周平
- 講談社 / 2024年10月16日発売
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楡周平『サンセット・サンライズ』講談社文庫。
地方創生をテーマにした映画化作品。映画は宮藤官九郎が脚本を書き、菅田将暉が主演を務めるようだ。ロケ地は気仙沼市と大船渡市らしい。唐桑半島に住む知人が話していたが、映画の撮影で菅田将暉ら俳優陣や映画スタッフが拠点にしたのは唐桑半島にある空き家のようだ。
ある程度の読書好きなら知っていると思うが、楡周平は岩手県一関市藤沢町出身の作家だ。藤沢を舞台にした骨太ミステリー小説『骨の記憶』の文庫本のあとがきで初めて本人が出身地について語ったことを記憶している。地元一関市で、このことが余り話題にならないのが不思議なくらいである。
楡周平と言えば、初期の頃には覆面作家として、朝倉恭介シリーズに代表されるハードボイルド・アクション小説を書いていたが、最近では『介護退職』『終の盟約』『サリエルの命題』など、社会問題をテーマにした小説が多い。
舞台は気仙沼市に近い宮城県北部の海沿いにある宇田濱という人口6.000人の架空の小さな町である。気仙沼まで車で30分と書いているのと、宇田濱という町の名称と響きが似ている歌津町がモデルではないだろうか。現在は志津川町と合併し、南三陸町と名称が変わり、東日本大震災の際には壊滅的な被害を受けた場所である。
なるほど、小説でも充分に面白いのだが、映画にしたら素晴らしいストーリーになるに違いない。
日本は首都圏にばかり人が集まり過ぎて、地方では過疎化と高齢化に歯止めが掛からない。地方の空き家問題はこの先、さらに大きな問題になるだろう。一部の不動産会社は中古住宅を買取り、リフォームして売出すというビジネスを展開しているが、これからはさらに空き家が増えていくのだろう。地方には稼げる仕事が少なく、ある程度で空き家の需要が伸びないことが予想されるのだ。
東日本大震災から9年が経過し、新型コロナウイルス感染症が流行し、東京の企業は次々とテレワークを採用する。
海釣りが趣味で36歳になる東京の大企業に勤める西尾晋作は、コロナ禍による会社のリモートワーク採用を機に田舎への移住を考える。ネットで物件を検索し、三陸の宇田濱に見付けたのは、3LDK、家賃8万円、おまけに家具家電付きの神物件だった。大家は津波で夫と子供たち、義母を失い、義父と共に暮らす39歳の関野百香だった。
早速、晋作は宇田濱に移住し、大好きな釣り三昧の日々を過ごすが、地元の人々は東京から来たよそ者の登場に気が気でない。しかし、次第に一癖も二癖もある地元民と打ち解けるようになった晋作は過疎の町で、地方創生につながるある事業を思い付く。
本体価格870円
★★★★★
2024年10月22日
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家飲み大全 おつまみ編 (だいわ文庫)
- 太田和彦
- 大和書房 / 2024年10月12日発売
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太田和彦『家飲み大全 おつまみ編』だいわ文庫。
『家飲み大全』の第2弾は、太田和彦のお気に入りの家飲み定番おつまみのレシピ集である。太田和彦の奥さんのいづみさんが毎日の晩酌のために作ったおつまみのメニューを書き残したノート『小料理いづみ お献立帖』が元ネタのようだ。簡単に作れるおつまみレシピ55品がカラー写真と紹介エッセイと共に紹介される。
アルコール類を一切口にしなくなって10年以上が過ぎたが、おつまみの類は相変わらず好きである。
余り手間を掛けずにアイデア勝負のおつまみの数々はなかなか興味深い。
きゅうりとカニカマのサラダは確かに美味い。カニカマは少し高級なものにして、マヨネーズで和えた方が美味い。昔、上野にあるとんかつ井泉で初めてカニと胡瓜のサラダを食べてその美味さに驚いたが、カニカマでも充分である。
イカと大根の甘辛煮も美味い。大根の代わりに里芋でも良い。盛岡から秋田に向かう国道沿いにおでんが有名な峠の茶屋という店があるが、ここのおでんにはイカが使われている。あの独特の濃い色のつゆはイカかスルメで出汁を取っているのだと思う。
しゅうまいを家で作るのはなかなか面倒だと思う。一関の稲村というラーメン屋はラーメンも美味いのだが、具材に殆ど玉ねぎだけという焼売も名物だ。ウスターソースで食べる熱々の焼売はたまらない。一度、家で玉ねぎだけの焼売に挑戦したが、稲村の足下にも及ばなかった。
牡蠣の昆布焼きは一関のこまつで食べたことがある。確かこまつの牡蠣は唐桑の大ぶりの牡蠣を使っていたと思う。唐桑の牡蠣はなかなか手に入らない貴重品である。唐桑の牡蠣は、宮古の牡蠣や広島の牡蠣に比べて大ぶりで味が濃く、生でも美味いが、焼いたたり、火を通した方がさらに味が濃くなり、美味である。牡蠣のシチューやグラタンも美味い。
本体価格980円
★★★★★
2024年10月21日
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侠飯10 懐ウマ赤羽レトロ篇 (文春文庫)
- 福澤徹三
- 文藝春秋 / 2024年10月9日発売
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福澤徹三『侠飯 10 懐ウマ赤羽レトロ編』文春文庫。
ついにシリーズ第10弾。今回も書き下ろし。
今回も柳刃竜一と火野丈治の2人が絶品レシピを振る舞い、痛快無比な活躍を見せる。
昭和から平成、令和と時代が流れるにつれ、犯罪の質が変わって来た。今やトクリュウや闇バイトといった匿名の首謀者が姿を隠しながら、社会的経済的弱者を手足に使い、強盗殺人や特殊詐欺でカネを奪うという凶悪事件を起こしている。そんな時代の移ろいを憂うかのようにストーリーは展開する。
売れないウエブライターの熱川薫平が主人公で、彼はヤクザ関連の記事を書くために元組長が経営する赤羽にある1泊1,500円の昭和レトロな古民家ゲストハウスに連泊することになった。
薫平はやはりゲストハウスに泊まる関西出身のルミとゲームオタクでバックパッカーの芯太と知り合うそこに現れたヤバそうな柳刃竜一、火野丈治の何時もの2人組が、昭和レトロな絶品料理を作り、薫平たちに振る舞う。
しかし、薫平の取材はなかなか捗らず、イライラしているうちに何者かに拉致される。
本体価格780円
★★★★
2024年10月20日
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ミカエルの鼓動 (文春文庫)
- 柚月裕子
- 文藝春秋 / 2024年10月9日発売
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柚月裕子『ミカエルの鼓動』文春文庫。
今度の柚月裕子の小説は医療ミステリーである。
柚月裕子にしては、珍しくかなり物足りなさを感じる小説だった。この小説の最大の山場である心臓に難病を持つ少年の手術の後で長々と登場人物の過去が語られたことで冗長的になったこと、その分『ミカエル』の問題はお座なりに描かれ、プロローグとラストの登山シーンは理解出来ないし、主人公の家庭問題も取って付けたようで雑音にしかならない。
手術支援ロボット『ミカエル』を使った心臓外科手術の第一人者である西條泰己は北海道の大学病院でもエースと目されていた。しかし、院長がドイツの病院から同じく心臓外科手術の天才医師である真木一義を招聘してきた。真木は西條の目の前で途轍もない速さと正確さで心臓外科手術を完遂してみせる。
焦りを感じる西條にフリーライターの黒沢が取材で近付き、『ミカエル』が何らかの問題を抱えていることを告げる。
そんな中、生まれつき心臓に難病を持つ12歳の少年が手術を受けるため大学病院に入院する。そして、少年の術式を巡り、西條と真木は対立することになる。西條の主張する『ミカエル』を用いた最先端医療か真木の主張する従来の術式による開胸手術か……
本体価格910円
★★★
2024年10月19日
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狼の牙を折れ 史上最大の爆破テロに挑んだ警視庁公安部
- 門田隆将
- 小学館 / 2024年8月6日発売
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門田隆将『狼の牙を折れ 史上最大の爆破テロに挑んだ警視庁公安部』小学館文庫。
1970年代に起きた連続企業爆破テロ事件の犯人『東アジア反日武装戦線 狼』と警視庁公安部の息詰まる攻防を描いた読み応えのあるノンフィクション。
今年、2024年1月に50年に亘り逃亡を続けていた『東アジア反日武装戦線』のメンバーの1人、霧島聡が死の間際に名乗り出たという衝撃のニュースが駆け巡ったことは記憶に新しい。霧島は日本の高度経済成長の末期に起きた史上最大の爆弾テロの犯人グループの1人だった。
現代の日本に於いては、裏金問題、脱税、企業献金、旧統一教会との蜜月などなど宗教団体を背景とする政党と連立政権を組む与党を中心とした政治家の腐敗が留まることを知らない。さらには非正規労働者の増加による所得の低下、増税や社会保障費の増額、無策による物価高、社会保障給付金の減額と日本社会は堕ちていく一方である。こんな時代に極左組織が居たならば、たちまちテロ活動が活発化したに違いない。
しかし、今の時代は犯罪者は余り群れることはせず、ネットやSNSを巧みに使い、匿名性を利用しながら、経済的に困窮した若者たちを手足に使い、所謂、闇バイトによる強盗事件や特殊詐欺といった犯罪を行なっている。時代と共に主義、主張は変貌し、ネットやITの進化により犯罪の質も変わってきているようだ。
1974年8月30日、昼休みを終えようとしていた東京のオフィス街丸の内にある三菱重工ビルが爆破される。オフィス街には轟音と爆風が駆け抜け、瞬く間に立ち込めた白煙で覆われ、正視に耐えない遺体が転がり、身動きできない重傷者の上に容赦なく砕けたガラスの破片が降り注いだ。
死者8人、重軽傷者376人を数えた前代未聞の爆弾テロ事件に犯行声明を出したのは『東アジア反日武装戦線 狼』という極左組織だった。さらに『東アジア反日武装戦線』の大地の牙、さそりを語る極左組織による財閥系企業を標的にした爆弾テロは連鎖していく。
警視庁公安部は一連の爆弾テロの教科書となったと見られる『腹腹時計』を手掛かりに少しずつ『東アジア反日武装戦線』のメンバーの正体に迫る。
本体価格860円
★★★★
2024年10月17日
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下級国民A (幻冬舎文庫)
- 赤松利市
- 幻冬舎 / 2024年10月10日発売
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赤松利市『下級国民A』幻冬舎文庫。
何時ものように日本社会を揶揄する小説かと思ったら、自らの体験を綴り、日本社会の歪んだ構造や現実を炙り出す興味深い体験エッセイだった。
バブル崩壊後、労働者派遣法が改正されると、様々な業種で人材派遣が可能となり、非正規労働者が爆発的に増加した。いつの間にか人材派遣会社が労働力の対価を搾取し、非正規労働者は何時までも薄給に甘んずるという現代の奴隷制度のような上級国民と下級国民の二極分化が完成したのだ。非正規労働者は3K職場でも補償が薄い上に正規社員程は稼ぐことが出来ないのが現実だ。そんな中で東日本大震災の復興というビジネスに非正規労働者の多くが投入され、ゼネコンやその下請会社は幾分でも高い稼ぎを手にしようと危険な現場に殺到したのだ。
関西で自ら社長を務める会社の経営に失敗し、家族とも別れ、コンサルタント業で糊口を凌いでいた著者は、最後の望みの綱である知人の紹介で東日本大震災の復興ビジネスに手を染める。営業部長の肩書きのはずが、石巻市、仙台市と復興工事の現場で仕事仲間からの陰湿な苛めに合いながらの土木作業だった。
やがて、新たな仕事を求めて福島県へと向かい、危険極まりない除染作業に従事する。最初は郡山市の住宅除染を手掛けるが、金にならないと知るや、南相馬市の水田除染で一攫千金を狙う。しかし、有象無象の除染作業者と守られない労働契約、金銭搾取などに悩まされ、思ったように稼ぐことが出来なかった。
本体価格630円
★★★★★
2024年10月15日
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グレートベイビー (幻冬舎文庫)
- 新野剛志
- 幻冬舎 / 2024年10月10日発売
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新野剛志『グレートベイビー』幻冬舎文庫。
『キングダム』や『ヘブン』のようなハードなピカレスク小説を期待したのだが、よくストーリーが理解出来ない全くつまらない小説だった。
美しきDJの鞠家千春は、かつては普通の男子高校生だったが、倉臼という不良に男根を切り落とされ、女性として生きていた。ある時、倉臼と再会した千春は女を武器に倉臼に近付き、復讐を果たすが、千春を襲うことを命じた別な人物が居たことを知る。
そんな中、千春のことを『マリア様』と崇める謎の団体があると知った千春は組織に潜入し、そこで過激な世界を知る。
本体価格900円
★★
2024年10月14日
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漫画 ゆうえんち -バキ外伝- 6 (少年チャンピオン・コミックス)
- 板垣恵介
- 秋田書店 / 2024年10月8日発売
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原案・板垣恵介、原作・夢枕獏、漫画・藤田勇利亜『漫画 ゆうえんち 6』秋田書店。
5巻をもって完結した夢枕獏の『小説 ゆうえんち』でイラストを担当した藤田勇利亜が漫画化するという何ともややこしい作品。
第6巻。ついに『ゆうえんち』に入園した葛城無門。いきなりプロレスラーのゴブリン春日が立ちはだかる。そして、柳龍光までもが無門の前に姿を見せる。余りにも凄惨な格闘シーンは夢枕獏の原作に優るとも劣らない。
今回の『ゆうえんち』は無門の師匠の松本大山と柳龍光との死闘を繰り広げた本当の遊園地だった。
夢枕獏の原作『小説 ゆうえんち』も面白かったが、この『漫画 ゆうえんち』もオリジナリティがあり、非常に面白い。板垣恵介のジャック・ハンマーにスポットを当てたような『刃牙らへん』は休載に次ぐ休載でなかなかストーリーが進まずイライラするが、『漫画 ゆうえんち』はキッチリ月1連載が続いており、好調のようだ。
本体価格690円
★★★★★
2024年10月12日
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復活の歩み リンカーン弁護士(下) (講談社文庫)
- マイクル・コナリー
- 講談社 / 2024年9月13日発売
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マイクル・コナリー『復活の歩み リンカーン弁護士 下』講談社文庫。
『リンカーン弁護士』シリーズの第7弾にして、ミッキー・ハラーとハリー・ボッシュの共演作品の下巻。
『リンカーン弁護士』シリーズの読みどころの一つが法廷でのミッキー・ハラーの驚くべき手腕を発揮する証拠開示と素晴らしい弁舌である。下巻ではその面白さが余すことなく描かれる。
二転三転の息詰まる法廷劇と驚愕の展開、最後には清々しい結末が待っている。
いよいよ、元夫の保安官補を銃殺したとして収監されているルシンダ・サンズの無実を証明し、『復活の歩み』を勝ち取るための裁判が始まる。
リンカーン弁護士ことミッキー・ハラーは犯行の再現映像を公開し、サンズの銃撃が不可能であることを証明したが、再現映像がAI技術を使用していたことから証拠と認められず、ハラーは窮地に追い込まれる。
続いてハリー・ボッシュが証言台に立ち、被害者の保安官補の携帯電話の基地局情報から驚くべき事実を明かし、法廷はハラーの有利に傾いたかに見えた。だが、検察側はボッシュの証言の反証のためにハラーの元妻マギー・マクファーソン検察官を証人に準備していた。
さらに窮地に陥ったハラーは法廷侮辱罪で拘束されてしまう。しかし、それはハラーの綿密な計画だった……
そして、ハラー自身も自らの『復活の歩み』を手にすることになる。
本体価格1,000円
★★★★★
2024年10月12日
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復活の歩み リンカーン弁護士(上) (講談社文庫)
- マイクル・コナリー
- 講談社 / 2024年9月13日発売
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マイクル・コナリー『復活の歩み リンカーン弁護士 上』講談社文庫。
数年前から講談社文庫はビニールで包装されており、それを破り剥がすのが面倒で、ついつい読むのが後回しになってしまうのだ。過剰包装は止めて頂きたいものだ。
本作は『リンカーン弁護士』シリーズの第7弾にして、ミッキー・ハラーとハリー・ボッシュの共演作品の上巻である。冒頭ではボッシュと何度かコンビを組んだ女性警察官のレネイ・バラードも登場する。
非常に面白く、読み応えがある。まだまだマイクル・コナリーもハリー・ボッシュも健在であるようだ。ボッシュがお気に入りのジャズの演奏リストにジョー・ザヴィヌルの『バードランド』を加えていたのには思わずニヤリとした。
まだまだ一筋縄ではいかないこの難事件にミッキー・ハラーとハリー・ボッシュはどう挑んでいくのか、下巻に急ごう。
73歳になったハリー・ボッシュは慢性骨髄性白血病を発症し、異母兄弟であるミッキー・ハラーの協力によりUCLAで新薬の臨床試験の治験者となり、加療しながら、パートタイムでハラ―の協力員を行なっていた。
無実の罪で服役していたホルヘ・オチョアを救い出したミッキー・ハラーは、服役囚の『復活の歩み』に取り憑かれ、冤罪事件の弁護を渇望していた。
無実の罪で服役していたホルヘ・オチョアを救い出したことで、刑事弁護士ミッキー・ハラーの元に冤罪を訴える囚人からの手紙が殺到し、元ロス市警刑事のハリー・ボッシュが弁護に値すると思われる手紙を選別をしていた。山のような手紙の中から、ボッシュは保安官補の元夫を銃で殺害した容疑で5年間収監されている女性のルシンダ・サンズの手紙に無実の可能性を見出していた。
ハラーとボッシュはこの事件の背景を探ると凶器の銃が未発見など数々の不可解な点が見付かる。次第にハラーとボッシュはルシンダが収監された真相に近付くのだが、その矢先に何者かが2人の自宅に侵入していた。侵入は2人への警告なのか……
そして、いよいよハラーの『復活の歩み』への闘いの法廷が開廷する。
本体価格1,000円
★★★★★
2024年10月11日
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情熱の砂を踏む女 (徳間文庫)
- 下村敦史
- 徳間書店 / 2024年9月10日発売
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下村敦史『情熱の砂を踏む女』徳間文庫。
何時も様々なミステリーやサスペンスで楽しませてくれる下村敦史であるが、今回ばかりは少し空回りが過ぎたようだ。
スペインの闘牛界を舞台にミステリーを描いたという点は面白いのだが、設定や展開が余りにも強引過ぎるし、終盤に明かされる驚愕の真相も乱暴過ぎたようだ。
例えるなら素晴らしい小説を原作に二流映画監督が無理矢理、2時間の映画に仕立てたというような作品だった。
日本人には余り馴染みの無い闘牛であるが、スペインでは文化の一つであり、宗教的な意味合いもあり、儀式的な部分もあるようで、日本の大相撲にも似ている。
スペインで闘牛士となり、闘牛中の事故で亡くなった兄の進藤大輔を悼むためにスペインに向かった妹の怜奈はその死に疑念を持つ。始めは兄の生命を奪った闘牛を嫌っていた怜奈だったが、次第に闘牛に魅せられ、数少ない女性の闘牛士になろうとスペインに留まる。
2年の月日が流れ、怜奈は念願の闘牛士となる。闘牛士として闘牛場で演技を続けるうちに兄の死の真相に近付いていく。
本体価格820円
★★★
2024年10月9日
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東京の空の下オムレツのにおいは流れる (河出文庫)
- 石井好子
- 河出書房新社 / 2024年9月6日発売
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石井好子『東京の空の下オムレツのにおいは流れる』河出文庫。
昭和の大ベストセラーとなった半世紀以上前に刊行された料理エッセイの名著が2作同時復刊された。『巴里の空の下オムレツのにおいは流れる』の姉妹編。
半世紀以上前に書かれたエッセイとは思えないほど、フレッシュな感覚の料理エッセイだった。著者本人は随筆と言っているのが面白い。
最初に紹介されるのはロールキャベツ。ロールキャベツというのは世界各国にあることを初めて知った。日本の家庭料理のロールキャベツは竹串で止めるだけでなく、干瓢で縛ったりする場合もあるが、世界各国を見渡せば、ロールキャベツにはさらに様々なレシピがあるようだ。
ナス料理も世界各国色々あるようで、ナスのキャビアには驚いた。自分がナス料理で一番好きなのはナス炒りである。醤油と酒味醂で味付けたナスの炒め煮の田舎料理だ。関東出身の妻はナス炒りを知らなかったようで、初めて食べた時には驚いていた。
イギリスには行ったことはないのだが、フィッシュ・アンド・チップスは天栄村にあるブリティッシュ・ヒルズという所で初めて食べた。フレッシュ・ヒルズは神田外語学院が経営する教育・宿泊施設で、日帰りで本場のイギリスの雰囲気が味わえる面白い場所だ。スタッフにはイギリス人が多く、英語だけで会話することも可能だ。フレッシュ・アンド・チップスという料理は、なかなか美味い物で何度か足を運んで食べた。ブリティッシュ・ヒルズの中には本格的なアフタヌーン・ティーを提供してくれるカフェもある。
ベイクド・ポテトはアメリカのトニー・ローマというステーキ・ハウスでリブアイ・ステーキの付け合わせで食べた。日本のじゃがいもと同じなのだが、やはりアメリカだけに兎に角デカい。トニー・ローマはハワイにも支店があり、スープを頼むとカップかボウルかと聞かれる。ボウルを頼むと洗面器みたいな器で並々とスープが提供されるので、カップを選ぶのが無難だ。カップと言ってもマグカップよりも大きい器でスープが提供される。また、トニー・ローマの名物にオニオン・リング・フライがあり、これもホールかハーフか選ぶことが出来る。普通の日本人ならハーフでも充分過ぎる。
定価880円
★★★★
2024年10月8日
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巴里の空の下オムレツのにおいは流れる (河出文庫)
- 石井好子
- 河出書房新社 / 2024年9月6日発売
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石井好子『巴里の空の下オムレツのにおいは流れる』河出文庫。
昭和の大ベストセラーとなった半世紀以上前に刊行された料理エッセイの名著が2作同時復刊された。
シャンソン歌手にしてエッセイストの肩書きを持つ著者による料理エッセイなのだが、並みのエッセイではない。1950年代のパリの生活風景や風土、文化を描写しながらフランスの家庭料理のレシピ、その味が微に入り細に入り描かれる。フランス料理と日本料理との比較、日本料理へのアレンジ方法、日本を含め、世界各国の料理なども紹介される。
フランス料理は様々な料理で大量の『バタ』が使われる。また、意外にも様々な野菜を豊富に使った料理が多いようだ。
チーズオムレツひとつにしてもアメリカとフランスとではレシピが異なるようで、オムレツと言っても様々なバリエーションがあるのが面白い。
この時代にアクアパッツァやビシソワーズなどを描いているのが興味深い。食べることと調理することの面白さが伝わるエッセイだった。
定価880円
★★★★
2024年10月7日