Beloved: Pulitzer Prize Winner (Vintage International)
- Knopf Doubleday Publishing Group (2004年6月8日発売)
世界の小説を読む第21冊目アメリカ合衆国
ボーッと本を読みたい時にはオススメしない。何万人もの苦痛、恥辱、絶望、そして命の重さが込もっているから。登場人物達が一度見たものは一生記憶から消せなかったように、読者にとっても、一度読んだこの本の内容は一生記憶から消せないだろう。Elie Wieselの"Night"と同様に、死ぬまで忘れない本になると思う。南北戦争後のアメリカ。奴隷制度から解放されたはずなのに、過去の呪縛に未だ囚われたままでいる元奴隷達の生き様を描く。主人公は、白人に捕らわれるぐらいならと自らの子を殺めた女性。殺しそびれたもう一人の娘と誰の手も借りずに孤独に生きていたある日、謎の女性が彼女の下を訪れる。主人公は実在の人物に基づくが、自分の子を殺してでも逃したかった現実は一体地獄以外の何なのだろう。彼女と同じ農園で生活を共にした者達は様々な直接的暴力と迂遠的差別の末に、処刑された者、狂った者、消息を絶った者、過去を消した者、色のない世界で生涯を終えた者しか残らなかった。抱えた傷と痛みは一生消えないながらも、他人に頼る事で徐々に和らいていく過程を見て少し人間というものに希望が持てた。容赦のない情景と人物描写のみならず、構成と演出が秀逸。実際に起きている事と登場人物達の記憶の断片をどちらも掻き寄せた形で話が進むため、時系列がめちゃくちゃ。そのため、最初は見過ごしていた描写が後で実は重要な意味を持っていたと気づき、慌ててページを繰り戻る事もしばしばあった。描写自体が直接的ではなく、帳が掛かっているかのような比喩表現で語られる事もままあったので、キャラクターの脳内にしっかり入り込まないと理解できない様になっている。そしてそうした途端、まるで自分がキャラクターになってしまったかのような錯覚に陥る。疑いようのない名作。中学生〜高校生の必須図書にして欲しい。人種差別の再燃が懸念されるトランプ政権下のアメリカでより重要になるのではないか。
- 感想投稿日 : 2016年11月4日
- 読了日 : 2016年10月29日
- 本棚登録日 : 2016年10月29日
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