「新日本古典文学大系」の前身である、「日本古典文学大系(旧体系)」に収められている『源氏物語』(全5巻)を典拠にしたもので、岩波文庫版『源氏物語』は全6巻で構成される。とはいっても、この本の位置付けは、「日本古典文学大系(旧体系)」版の『源氏物語』の縮小版ということではなく、『源氏物語』青表紙証本の本文を完璧に収録したものであり、山岸徳平先生による「山岸源氏」の完結版である。
底本は、三条西家本(三条西実隆の筆による青表紙証本:現宮内庁書陵部蔵:三条西家旧蔵)。第1巻には、「桐壼」から「花散里」までの11帖(11章)、光源氏の誕生の経緯から25歳になるまでの話が収められている。
さて、「日本古典文学大系(旧体系)」版の『源氏物語』(全5巻)を典拠にしているといっても、文庫版『源氏物語』のほうは頭注が省略され、巻末に重要な注がまとめられているので、本文と傍注だけというページレイアウトになっている。「山岸源氏」の特色は複雑な文脈を分かりやすくした傍注にあるのだが、現代語訳は付いていないので、これを読解するには、高い読解力を持っていること、もしくは古語辞典を傍らに置いて参照しながら読み進めるだけの粘り強さが求められる。
実際のところ、他の注釈書に比べて最もシンプルな『源氏物語』なので、1巻目を読了するまでが大変。俗に「須磨源氏」といって、『源氏物語』は12帖(12章)「須磨」の巻で挫折するというジンクスがある。しかし、この文庫の場合は「須磨」にたどり着くのも一苦労だから、1巻目を読了することができたなら、6巻まで完読できるレベルに達したと言えそうだ。
このように書いてしまうと、『源氏物語』注釈書として難しそうなイメージだけが表面に出てしまうが、シンプルな構成だからこそ『源氏物語』本来の文脈とかリズムが伝わってくるという愉しさを秘めている。だから、先に現代語訳の注釈書に接してからでも、この「山岸源氏」にチャレンジするべきだと思う。『源氏物語』は世界に誇る文化遺産なのだから、これを原文で味わえるのも日本史の下流にいる者の福禄だと思うのだが。
内容(「BOOK」データベースより)
華やかな宮廷生活の表裏を、これほど鮮やかに美しく描き上げたロマンは他に類をみない。本書は源氏研究に一期を画した硯学の校訂になる。殊に、複雑な文脈を系統づける傍注は大きな特色といえよう。本巻には「桐壼」から「花散里」にいたる11篇を収録。
- 感想投稿日 : 2011年2月22日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2011年2月22日
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