もっと知りたい源氏物語

著者 :
  • 日本実業出版社 (2004年4月1日発売)
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感想 : 8

『源氏物語』の現代語訳を手掛けた作家さんで、『源氏物語』にまつわる副読本的な著作が多いのは瀬戸内寂聴さん、田辺聖子さん、そしてこの本の著者である大塚ひかりさんだろう。御三方の『源氏』ものエッセイは、それぞれに特徴があって面白く、瀬戸内寂聴さんは女性的な視線で、田辺聖子さんはコミカルな視点で書かれているのに対して、大塚ひかりさんの作品は週刊誌的な読みやすさを感じる。このように分類すると、大塚ひかりさんの作品が三面記事的な面白さであるかのように思われるだろうが、その背景には学術的な視点もシッカリと備わっているのだ。

『源氏物語』という古典を読んで得たことがらだけではなく、『源氏物語』研究というジャンルに分け入って吸収したことや感じたことを踏まえて書かれているところが大塚ひかりさんの著作の特徴だろう。それを結晶化させたのが、この本の4年後に出された『大塚ひかり全訳 源氏物語』である。ならば『大塚ひかり全訳 源氏物語』を読めば、大塚ひかりさんの他の著作は読まなくていいというものではなく、それぞれが違った切り口で書かれていて別々の味わいを持っている。

この作品の場合は、『源氏物語』が書かれた時代背景を衣食住や、さまざまな風習と照らし合わせながら分析されている。たとえば『源氏物語』に描かれた時代設定、帝のモデルは誰か、光源氏のモデルは誰か、光源氏の好みのタイプ、口説き文句、登場人物のフトコロ事情、脇役の重要度などなど、さまざまな視点からスポットを当てている。それらは現代語訳を読んでいると見逃してしまいそうな細々としたことがらではあるのだが、知っていたほうが物語をうんと楽しめるというものだ。

『源氏物語』のガイドブックや副読本には学者さんの手によるものも少なくないが、見掛け倒しでお茶を濁したような作品も少なくない。しかし、大塚ひかりさんの場合は、学者さん並み、あるいはそれ以上に研究された作品ばかりで、その深さと熱心さに驚かされる。そこで、この人の研究スタイルも気になったりするのだが、その手の内をすべて明かすことはない。巻末に主な参考書籍を挙げてはあるのだが、あたりさわりのない内容になっている。白鳥の水面下の足の動きが見えないのと同様に、「必死になって研究してます」ってところは隠しておきたいのだろう。また、すべてのネタを明かさないのが、売れる秘訣でもあるのだけれど。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 『源氏物語』&紫式部
感想投稿日 : 2011年4月7日
読了日 : -
本棚登録日 : 2011年4月7日

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