彼女の実家へ結婚の挨拶に赴いた祐二。嫌がる乙瑠を不審に思いながらも、これからの未来に希望を抱いていた。挨拶も無事に済み、宴会で酷く酔った祐二は、ふと深夜に目を覚ます。そして、親族に誘われるがままに、異様な儀式に参加させられてしまった。
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「おどろしの森」の作者の前作「お孵り」卵を抱いた虚ろな目の女性の表紙に惹かれて購入。あらすじは読まずに買ったが、閉鎖的な村、そこで脈々と受け継がれる信仰、そして過去に起こった悲惨な事件など大好物のオンパレードで読んで大興奮。さらに、その信仰に伴う狂気的な儀式やそれに支配されている村人など兎にも角にも素晴らしい。生まれ変わり信仰という超常現象部分もあったが、実際に起こった「津山三十人殺し」がモティーフとした事件が作中でおこったり、それが繰り返されたりとオカルトホラーよりサスペンスホラー色の強い作品だった。そのサスペンス部分が主人公の婚約者である乙瑠の生まれ育った「富茄子村」で脈々と受け継がれている土着信仰とマッチしておりよかった。どっちの設定が抜けても多分面白くなかったと思う。愛した者と結婚し、子供をもうけ、幸せな家族像を想像していた主人公と乙瑠。その幸せが村の身勝手な信仰によって壊されていく様は読んでいてつらかった。村のなかで生まれ育ち、信仰を何の疑いもなく続けている人ばかりなのが原因なのだろうか。私たちが持ち合わせている価値観や倫理観に反する理屈ばかりをこねる人間ばっかり出てきてげんなり。乙瑠の親族ですら、乙瑠の幸せを積極的に壊してきてびっくりした。普通ならこんな風習に巻き込まれた娘が可哀そうとか、孫が可哀そうとか問ういう事になりそうなのに……。これが、集団心理というのだろうと思う。昔から大多数がやっていたことだからか、やっている本人たちは悪いことをしているという気配はかけらも見せない。そういう所も嫌悪感がすごい。 村人や乙瑠の親族によって完膚なきまでに叩きのめされた主人公が、これからどうなるのか、救われるのかとそればかり気になって読み進めていった。途中でオカルト専門の公安に勤める女性が出てきた時は、「あれ? 特殊部隊とかそういう方向に行くのか?」と思っていたがこの女性が主人公を的確に助け、導く役を担っていたので非常に良かった。というかこの女性がいなかったら多分主人公ではどうにもできなかったし、何も知ることができなかっただろう。村に二人で乗り込んだ際も、この女性なしではことがまったく進まなかったに違いない。 そして、村に乗り込んだ後の物語の展開はすさまじいものだった。読み進めていくと、昔この村で惨劇を起こした男の転生先が誰であるかは何となく察していたが、いざ現実を突きつけられるとかなりショックだった。そうだろうけど、そうじゃないほうが良かったなぁ。 ラストも衝撃的で、この事実は喜んでいいのか悪いのかがわからなかった。
この小説の怖い所は、信仰している人間が狂気的なところ。こういう宗教が絡むオカルト話は、信仰されている対象が自分のために村人を使役したりしそうなものだが、この話はそうではなく、信仰している側が「生まれ変わるためにはこうするしかない!」という思い込みの元行動している。別に神様が「こうしないといけない!」とお告げでいっているわけではないにも関わらずである。人間を生まれ変わらせる”だけ”の神様を信仰する側が、欲のために歪んでしまった結果がこの話だろうが、案外現代にもありそうで怖い。
- 感想投稿日 : 2020年12月8日
- 読了日 : 2020年12月7日
- 本棚登録日 : 2020年12月8日
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