ニーチェ入門 (ちくま新書)

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レビュー : 96
著者 :
Keiichiro Oeさん 哲学   読み終わった 

19世紀ドイツの思想家、F.ニーチェの解説書です。初版は1994年、良書が多いちくま新書のなかでもロングセラーではないでしょうか。とある講座の参考図書として挙げられていたのでこの度とりあえず読んでみた次第です。

わたしのニーチェに対するイメージは非常にネガティブです。①どうみても優生思想(特に後期)であり、②『道徳の系譜学』以外は論考としての体をなしておらず、アフォリズムという非常に突っ込みにくい逃避的記述形式に閉じこもっていて、挙句の果てに③全体主義者や自己啓発屋といったうさんくさい連中に好き放題いじくり回され利用された、以上によりまったくもって相手をするに値しない妄言、という感じでしょうか。

そんなわけで本書もどうせ我田引水して自説強化してドヤ顔するだけのつまらん本だろう、と考えていたのですが、さすがは竹田先生、肝心なところはきちんと本人の著作に基づいて、それでいて彼のややこしい言葉の渦が簡潔明瞭に整理されています。

「ルサンチマン」という概念によって絶対的な価値・イデオロギーの根幹を切り崩す、その手法は竹田先生の整理に則って考えなおしてみると、実に鮮やかです。それもしつこいほど挑発的で、論破された相手の苦虫を嚙み潰したような顔が浮かぶようです。ここでは時代的な背景からキリスト教的道徳がやり玉に挙げられているわけですが、いわゆるイデオロギー一般を攻撃するやり方として普遍的に通用する、戦略的思考プロセスといえるでしょう。

他方、単なる礼賛本ではなく、ニーチェの思想の問題点や弱いところ、どうにも救いようのないところも変にスルーすることなく書いてあります。P.137~の引用などは正直読むに堪えませんし、竹田先生もなんとかフォローしようと論を立てていますが、このあたりはどうにも溝が埋まりません。ただなんにせよ、そういう欠点についても書いてあることは評価したいです。

ニーチェの思想は結局のところわたし個人にとっては参照点にすぎません。極端な方から考える、という発想手法を採る場合に、極北でクリアに輝く有用な星ではありますが、そこに向かって歩くことはありません。

第4章で、竹田先生はニーチェの思想をこんなふうにまとめておられます。

"ともあれ、「芸術」や「恋愛」という"愉楽""の体験はつねにある仕方で、わたしたちに生の本質を示唆するといえる。それはしばしば「宗教」とか「道徳」とか「真理」とかいった諸観念と激しく対立するようなものとして現われる。まさしくそのことによってそれは、人間の生が「超越的な根拠」などなくても可能であることを、逆に言えば、生の最も深い根拠は人間それ自身の内的な「力」にあると教えるのである"(P.225~)

しかしわたしはまったく逆のことを考えます。これまでわたしが「芸術」や「恋愛」を通して獲得してきたもの、それは逆説的にも「人間の限界」の確信、超越的なものへの意志、そして目の前の一歩を踏み出す(踏み外す)勇気だった、と。

レビュー投稿日
2017年11月23日
読了日
2017年10月10日
本棚登録日
2017年10月1日
2
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