1969年刊、博覧強記で知られるコリン・ウィルソンによる、クトゥルフ神話などのオカルトや世界の伝承を下敷きにし、超能力で人類発祥の謎を解くSF小説。と書くとキワモノのようであるが、これはただのごった煮のエンタメでは決してない。
登場する書物は執筆当時の最新の研究に基づき全て実在し、内容に関しても嘘をついていない。オカルト分野においてもそれは同じで、それらのリアルな資料をふんだんに使いながら、巧妙にフィクションで繋ぎ合わせ、壮大な人類の歴史を巡る知的好奇心に溢れた物語になっている。
ただ単によくできた小説というだけでなく、全編を通して大きなテーマが流れており、書かれた時代が良かったのか、人類の越えるべき壁を希望を持って眺めるような前向きなメッセージもあり、2024年の今読むと逆に新鮮に感じた。
ラブクラフトやポー、アーサー・マッケンなどの怪奇小説を読んだ流れで手に取ったこともあり、思っていたほど「怪奇小説」ではなく、淡々と独白による研究報告が続いていく。しかし読んでいて長い説明に飽き飽きすることはなかった。序文でコリン・ウィルソン自身が、「目眩を起こさせるような混合物を書くのが楽しい」と語っているように、自分が得た膨大な知識を頭の中で繋ぎ合わせながら未知の物語を創造する過程がそのまま作風になっていて、読んでいるだけで楽しんで描かれていることが伝わってくる。登場人物も数人に絞られていて、状況説明も必要最低限であり、(物語の副産物的な脱線はあるものの)主人公が知的好奇心のまま感動したことを主軸に物語を繋いでいるので、主観的ではあるが無駄なく物語に没入することができる。しかし、主人公の相棒のリトルウェイも主人公の次に重要な役だが、あまりにも人物描写がなさすぎて最後まで「便利な人」止まりなのは行き過ぎな気がしないでもないが、この極端な主観と宇宙規模の世界観の対比がこの小説の持ち味でもある。
また知識量ばかりではなく、機動戦士ガンダムにおけるニュータイプの10年前に、超能力の斬新な使い方や人類に与える影響まで考えだしていたことも著者の功績だと思う。また、ありとあらゆる神話や物語を組み合わせて新しいものを作る作風は「新世紀エヴァンゲリオン」などにも通じる新時代の考え方であり、「エヴァ」における人類と使徒の関係がこの作品における人類と「古きものども」の関係に近いのもとても興味深く読んでいた。この辺りは詳しくないので、誰かに解説をお願いしたい。一つの金字塔なのは間違いないと思う。
- 感想投稿日 : 2024年8月28日
- 読了日 : 2024年8月27日
- 本棚登録日 : 2024年8月27日
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