パッとしない子 (Kindle Single)

3.36
  • (30)
  • (78)
  • (105)
  • (24)
  • (12)
本棚登録 : 636
レビュー : 119
著者 :
Chicoさん  未設定  読み終わった 

●パッとしない子「辻村深月」
主人公の女性の先生は40歳手前。
10年以上前に受け持った教え子の兄がアイドルになって、昔いた小学校を訪れるというストーリー。

最初は自分はアイドルの子の方に感情移入した。昔教室内で辛い思いをしたことはあったし、その際に教師にされた無神経な行動は今でも覚えている。

でもこの教師も、「一生彼が視界に入るたびに辛い思いをし続ける」という業を背負うほどのことをしたのだろうかと考えると、たしかに彼女の発言や行動は無神経で無配慮だったけれども、その背負わされたその業の深さに見合うほどかと言われるとそこまででもない気もしてしまう、、、。
「先生」は根っからの悪人ではなく無神経なだけの普通の女性だと思う。
だからこそ、下手したら自分も、気づかないうちに無神経な発言をしてしまい、それだけの業を背負わされうるぐらいかもしれないぐらいに誰かを傷つけているかもしれないと思うと、そら恐ろしく、今後人に応対する際の態度を鑑みたいと思った。初めて読んだ時は心臓がばくばくして頭を殴られたような衝撃を受けた。今でもそのダメージは抜けていないが、いっそのこと抜けない方が、今後の他人との関わり方においてはいいかもしれない。

「無神経な発言で誰かを傷つけた話」

このワードで思い出すのは、小学校4年生の頃、囲碁で互先(ハンデなしの試合)で大人の男性に勝ったときのことだ。

それまではハンデを置いても全く勝てない相手だったが次第に実力は拮抗し、数ヶ月もしないうちにある時ついに、初めてハンデなしで勝つことができた。

勝った瞬間は、「嬉しい」という気持ちが7割と、それまで完全に相手の棋力が上だったところ、遂に逆転することになり「やってしまった、気まずいな」という気持ちが3割ぐらい。

対局が終わった後に普通はその試合の検討を相手と一緒に行う。碁石を片付けながら、嬉しさと気まずさを隠すために何か相手に言わなきゃと思った自分は、あろうことか、

「盤上のどこをみてるかわからないのでいいと思います」

って褒めるつもりで言った。
確かにその方は斜視のお方で、焦点が定かではなく、次盤上のどこを攻めるつもりなのかわからないことは戦略上有利に働くと思ったのだ。その時の自分は馬鹿だったから、ちょっとでも相手を褒めて喜んでもらい、気まずさを解消したいと思って、良かれと思ってそう言った。

そしたらその方が怒って立ち上がって検討もせずに石も片付けずに碁会所から出て行かれてしまった。大人の男性がそういう風に怒るのが初めてだったので、そこで初めて、「何かいけないことを言ってしまった」と思って蒼白になった。人の身体的特徴を、しかもたった今小学生に負けた相手にそういう風に、言ってはいけなかったと今ではもちろんわかる。でもその当時はわからず、褒め言葉のつもりだったのだ。

それが初めての、自分の「悪意がないことを言って人を傷つけてしまった経験」。

その時、自分に悪意がなく善意のつもりで言ったとしても人を傷つけてしまうことがあるということを初めて知った。その時の恐怖が今でも忘れられないでいる。

だから、この話は怖い。アイドルの子にも先生にも共感できてしまう。無神経なことを言われて傷ついた思い出。逆に自分もこんな風に無神経に誰かを傷つけているかもしれないという恐怖。両方感じたことがあるからだ。

辻村さんの文章を読んでいると思い出したくないトラウマや心の醜い部分までいきなり目の前に引きずり出される。そうしてナイフを首筋に突きつけたまま問われるのだ。自分の醜い、見たくない心と相対せよ、と。

レビュー投稿日
2019年6月30日
読了日
2019年6月29日
本棚登録日
2019年6月29日
1
ツイートする
このエントリーをはてなブックマークに追加

『パッとしない子 (Kindle Sing...』のレビューをもっとみる

『パッとしない子 (Kindle Single)』のレビューへのコメント

まだコメントはありません。

コメントをする場合は、ログインしてください。

いいね!してくれた人

ツイートする