何とも異色のプロモーターである。
経歴は元プロボクサーではなく、タクシー運転手の業務の傍らジムにかけつけ、時には理髪師の腕を活かして練習生の頭をカットする。
指導は手取り足取り懇切丁寧で、自宅や公園でもつきっきりで教え、練習後には生徒の体を拭いてやるほど献身的だ。
弱小のジムの会長らしく、時には新幹線の車内放送を利用して、ジムの宣伝にも余念がない。
従来のミットを構えつつ同時に算盤もはじく、狡知に長けた傲岸不遜のプロモーターのイメージとは異なり、津田にはどこまでも不器用で純粋な印象がある。
ただ正直言えば、津田が赤井という傑出したボクサーの世界への挑戦に寄り添いながら、なぜ去っていった竹ノ内に未練を残し、赤井より魅力も戦績も劣る杉本に執着したのか最後までわからなかった。
赤井にしてみると、教えてくれと何度も頭を下げ、ジムの立ち上げの際には自ら練習生をリクルートし、最大の後援者の心までとらえたのに、津田に自分の成功の可能性を最後まで信じてもらうことは出来なかった。
「津田が自分に交互に向けてくる甘い蜜と冷たい棘の記憶は、消化されない心の澱となって残り続けるしかなかった」という赤井の複雑な感情は読者の胸を打って止まない。
カバー絵がタクシーの制帽をかぶったまま練習生のパンチを受ける津田の写真であればもっと良かったのに残念。
というより本書の中で写真が一切使われていないのは、関係者の同意を得れなかったためか、何とも解せない。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2014年8月22日
- 読了日 : 2014年8月4日
- 本棚登録日 : 2014年8月22日
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