これまでは生産者の本を読んだらたいてい作ってるものを食べたくなるのだが、今回はまったくならなかった。
ネギが嫌いなわけではない。
他より数倍高い価格で20度超えの糖度のネギを欲しくはないというのがまず一つ。
普通のネギで十分。
「ネギはそういう野菜じゃない。庶民的な値段でないと無理なんだ」というスーパー担当者の感覚に近いかな。
それと売り方が何か嫌。
著者は、消費者金融時代に培った営業スキルを駆使して大都市圏に積極的に売り込みをかける。
「恋するカボチャ」とか「キスよりあまいほうれん草」などキャッチーなネーミングを考え出すのだが、ずぶの素人でも自信満々の大言壮語。
何万個を出荷したらどれくらいの儲けになるとゴールを設定したら、あとは見切り発車でGO。
適正分量もわからず原液のまま消毒薬をドハドバかけて、虫が付いてるとクレームがあると、回収して高圧洗浄機で吹っ飛ばし塩水に漬けてまた売り場へ。
そりゃ腐るって。
あまりにも事業計画が無謀すぎて、山形を飛び出て日本中を車で駆け回ることに。
気づいたら運転席で脱糞していたことも。
ゆっくり慎重に歩くのではなく、とにかく全速力で走り続ける。
失敗を何回繰り返そうが、助走があればあるほどその分飛躍も大きいという考え方。
農業ビジネスに参入してやると鼻息荒く野心満々な人には拍手喝采かもしれないが、自分はどちらかというと彼らに敗れ去った者たちにシンパシーを感じる。
ネギと苗だけで3億円を売り上げ、従業員もパートを含め数十人を雇用し、地元経済への貢献は大きいが、ネギ全体の消費量が爆発的に増えたわけでもないのなら、その分だけ割りを食った農家もそれなりにあるはず。
勝者の裏には敗者あり。
2Lなど高価格帯のボリュームゾーンを独占されているなら、MやLなどのそれ以下のサイズはますます薄利多売となるはず。
どんどんと廃業が進めば、ゆくゆくは安くて普通のネギを買い求める消費者にも皺寄せが来るかも。
それでも知らなかった、面白い話はいくつかあった。
雨の日に畑に入られるのを農家の人は特に嫌うというのもそう。
濡れた土を踏むことで、土中の酸素が抜けてしまう。
おまけに乾いた時にそのまま固まってしまうため、根の呼吸もしにくくなる。
湿った畑には入るべからず。
土は常にフカフカをキープしたい。
畑をフカフカに保てば、内部が乾燥しやすく、雑草の発芽も抑えられる。
だが、赤ちゃんネギの時は別。
フワフワだとヒョロヒョロの弱い丈しかできない。
ギュウギュウの土にして、上に重い土まで載せることで、太くて丈夫な丈にすることができる。
赤ちゃん苗は過保護に育てたいが、早い段階で風雨に当てた方が強く太いネギが育つのも経験してわかったこと。
「いかに育ちすぎを防ぐか」というのも農家にとっては重要な指針で、東北のような雪国の苛酷な環境も、丈夫な苗作りとってはアドバンテージになりうるのだ。
経験上わかったことは、雑草とは無理に戦わないこと。
どうせ勝てっこないのだから、撲滅を目指すのではなく、はなから雑草が好む土地には作付けしないこと。
いまはどんな畑でも借りやすくより取りみどりなのだから、土の質を見て、雑草の出やすい畑は借りないこと。
目の敵の雑草だが、実は中に病気や虫に効果のある雑草もあって、そういう雑草はあえて畑に蒔いて、休眠中の畑のリカバリーに貢献させている。
ネギなどのお馴染みの野菜は、大量に出荷できるところが有利で、価格も高く買ってもらえる。
普通ならバイヤーが大量に買い付ければその分リベートで安くなるはずだが、農産物の世界では逆になる。
スーパーやレストランなどの大口顧客が最も恐れているのは欠品で、それを避けるためなら、多少高い値段を支払うことも躊躇しない。
他にも、ホウレンソウは大きく育てた方が甘くなるというも知らなかった。
事実、大きくすればするほど、エグみの原因となるシュウ酸や硝酸が減少するのだとか。
- 感想投稿日 : 2024年11月27日
- 読了日 : 2024年11月27日
- 本棚登録日 : 2024年11月27日
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