これまで読んできた回顧録物の中でも、最上の部類に属す。
「果敢に冒険するのでなければ、人生など何の価値もありません」とはヘレン・ケラーの言葉だが、米司令官まで昇りつめた著者の40年にわたる半生は、まさに波瀾万丈の冒険の連続。
まず、自虐的に「空挺カエルちゃん」と呼ぶパラシュート降下訓練の際の事故が凄まじい。
文字通り股裂き状態になって、腹と足の筋肉が骨から引きはがされるという大ケガから生還して来るだけでも凄いのだが、その後も七つの海を航海し、世界中の戦地で迫撃砲やロケット弾で攻撃されるなど、死線をくぐり抜ける。
各国の大統領や王女など要人とも出会い、人類の最悪な部分も最良な部分にも直面してきた経験から導き出される教訓は、実に単純明快。
自分が手にした成功はすべからく他人の手助けによるもので、自分より優れた人間は周りにあふれている。
だから自分は出会った人びとと友情を育み、できるだけ数多くの人に手を貸す必要がある。
SEALの苛酷な特殊訓練に打ち勝てたのだから、どんな難関にもへこたれないはずだ。
絶対に鐘は鳴らさない。
最後まで何があろうとやり抜くのだ、と。
平和な状態にゆっくりひたれる人間になれそうもない骨の髄からの戦士だし、「世界を正しい姿にするために暴力をふるう荒くれ男」とも自認するのだが、本書で自身が関わった輝かしい戦歴の記述は極めて抑制的。
それより、特殊訓練中に失敗し恐怖にすくむ部下の様子や、負傷兵を見舞った時の病室の一場面の方がよっぽど心印象的。
爆弾で両手・両脚を失い、首や顔も傷だらけで息を呑むほどの重傷なのに、「ほかの何人かよりはずっとましです、まだ人生がいっぱい残ってます。うまくやっていきますよ」と語るマロッコとの出会いが忘れられないと語る。
「人生で幸運に恵まれれば、自分の世界がさかさまにひっくりかえっても他人を感化できるような人間に出逢い、忘れられない瞬間を味わうことがあるものだ。人生のどんな困難をも乗り越える方法があることを、彼らは教えてくれる。人間の体の形がどんなふうでも、人間として完全でいられる方法を、彼らは見つけ出す。膝を突いて若きブレンダン・マロッコと顔を突き合わせたとき、私はそういう瞬間を味わっていた」。
「私は病院で見舞った数百人の男女のことを思い起こした。彼らはひとり残らず、私におなじ質問をした。いつ部隊に戻れますか? 仲間のところへいつ戻れますか? どれほど肉体が傷ついていても、自分の友人、同僚、同志がいまも危険な戦地にいることを、彼らは考えずにはいられない。一度たりとも、兵士が人生の運命のめぐりあわせに愚痴をいうのを聞いたことはない。脚を失った兵士、視力を失った兵士、体が不自由になった兵士、二度とふつうの暮らしを営めなくなった兵士でも、けっして自分を惨めだとは思わない」。
- 感想投稿日 : 2022年4月21日
- 読了日 : 2022年4月21日
- 本棚登録日 : 2022年4月21日
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