三重スパイ――CIAを震撼させたアルカイダの「モグラ」

  • 太田出版 (2012年11月22日発売)
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分量の割には少々お高いが、その値打ちはある。なぜ一度に7人も職員を失ったのかのは、冒頭の部分で明らかだ。アルカイダにこれほど肉薄したスパイはいないと熱狂し、吟味もおろそかに手放しに信じる。こちらの誠意を見せるためと大勢で出迎え、あまつさえ途中の身体検査も、こちらが信頼している証にとパスさせ、基地内部に招き入れ自爆される。指弾させる司令官は、もともと9.11の陰謀を見過ごしたにかもかかわらず懲戒処分されず、最後に昇進に必要な経験を積ませるために司令官としてアフガンへ派遣された、女性CIA職員の草分けだった。

実戦に投入された無人機のめざましい活躍は、テロとの戦いの様相を根本から変化させている。あまりにも容赦のないピンポイントの攻撃におののき、テロリストは深く潜ってしまった。見つけにくいために、現地でリクルートした情報提供者の協力に期待して、もたらす情報を当てにするようになる。標準的な安全策さえ講じず直接接触したのが今回の原因だが、問題はもっと根深い。

しかしあまりに有能な無人機だが一回攻撃するごとに、3,4人の自爆志願者が来て、ミサイルは新兵募集の広告になると敵に嘯かれている。しかも、自国の領内で我が物顔で無人機による攻撃を行なって平気な国などないだろう。

モサドとは違い、アメリカの情報機関は自国の特殊部隊との間に根深い垣根が存在するようだ。CIAの局員はシールズの隊員を筋肉自慢の"頭の弱いゴリラ"とバカにし、反対に基地の外にめったに出ない"お子さま"と陰口を叩かれている。一度は、互いの専門性を交換するような訓練プログラムが組まれたが、あまり実績が上がらず、結局は専門に任せればいいということになった。世界各地に展開すると、その分薄く広くとなるので、最適の人材を選べず、内部の対立は深刻になる。

いろんな情報源から集まる大量のデータを分析し、陰謀を阻止し、隠れたテロリストを探し出す「ターゲッター」というエキスパートが典型だが、CIAもますます高い安全な塀に隠れて仕事をし、現場を知らないデスクワーカー職員となりつつあるようだ。

ちなみに最近読んだ『モサド・ファイル』では、"9つの命を持つテロリスト"と呼ばれたムグニエを狩ったのはモサドのチームということになっていたが、本書ではヨルダン総合情報部が仕留めたことになっている。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2013年5月8日
読了日 : 2013年2月24日
本棚登録日 : 2013年5月8日

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