罪と罰〈下〉 (新潮文庫)

  • 新潮社 (1987年6月9日発売)
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 主人公のラスコーリニコフは、自身の生活や経験から、頭脳と精神の強固な者だけが、人々の上に立つ支配者となり、多くのことを実行する勇気のある者が誰よりも正しいと悟った。そして、歴史が示しているように、人類の進歩のために新しい秩序を作るために現行秩序を踏みにじる権利は、物事を勇敢に実行する(善の大きな目的のためには、ちっぽけな悪には見向きもしないで踏み込む)者のみに与えられるという信念の下で、自分にその資格があるか試すために敢然と金貸しの老婆を殺害する計画を実行した。
最後まで逃げ続けよう、自分のことを疑っている奴らには決して屈服しないと考えていたラスコーリニコフであったが、その計画を実行する前後には、ラスコーリニコフは、犯行に対する不安や危惧、また、家族をはじめとする周辺で起こる出来事やそれに対する懸念などが相まって、何日も頭を痛めることになった。これは、ラスコーリニコフは、ナポレオンにはなれなかった、すなわち、権力を有するに相応の天才ではなく、ただの愚かな卑怯者に過ぎなかったことを示すものであり、彼もそのことを悟るに至る。また、知り合った退職官吏の娘であるソーニャの決して嘘をつかない真っすぐな生き方、自他を問わず不幸を受け入れようとする生き方に心を打たれ、最終的には自らが犯した犯罪のすべてを自白する。

 本編は全7部からなっており、1000ページを超える長編となっていること、登場人物が多く、時には名前が略されて述べられることなどから、読み切るには相当の根気が必要である。ただ、読み継がれている世界的巨匠の作品というだけあって、秀逸かつ独特な点がいくつもあった。例えば(これは、『罪と罰』に限らず、ドストエフスキーの作品に共通するのかもしれないが)、登場人物たちがかなり雄弁であり、現場の緊張感や当時の風俗のリアルがひしひしと伝わってくる。また、多くの小説では排除されている主人公以外の者たちの事件には直接関係のない会話や心境等が細かく記述されていることで、特異な状況(殺人犯、偏執狂)にある主人公とそれ以外の人物のそれぞれの時の流れや緊張感をリアルに感じられたと同時に、犯人の犯行前後の行動には様々な出来事や出会いが複雑に絡み合っているということを実感させられた(この作品を読んだ後では、通常の小説は、事件以外の時間をあまりにはしょりすぎて、現実からやや乖離しているといえるのかもしれない)。
 まとめると、本編は、罪を犯してしまったラスコーリニコフの罰ともいえる苦悩と戦いの物語である。ドストエフスキーは、理性による改革は失敗するということ、愛は人間の意思決定に介入し、行動を変えさせる力を有するということを示したものと考えられる。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2018年1月3日
読了日 : 2018年1月3日
本棚登録日 : 2018年1月3日

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