ロシア近代文学の祖ともされるプーシキンによる娯楽小説です。
貴族の生まれであるピョートル・アンドレーイチが、ロシア周辺地区の辺鄙な要塞に配属されたことで、物語の背景となる1773~1775年に現実に発生した大規模な農民の反乱であるプガチョフの乱によって運命を翻弄される過程がドラマチックに描かれます。
貴族である厳格な父の手はずによって17歳のピョートルが軍人として赴くこととなったのは、ステップ地域の辺鄙なベロゴールスク要塞でした。希望していた華やかな首都とはほど遠い任務地に落胆するピョートルでしたが、要塞の司令官である大尉の娘との恋愛やライバルとの決闘などを経て次第に活力を取り戻します。そんなおり、のどかなはず辺境の要塞は、プガチョフ率いる反徒襲来の報を受けます。
物語は数多いエピソードに彩られながらも、あくまでスピーディーに展開し、司令官の娘との恋愛やライバルとの対決、残酷なシーンも含む反徒との闘いにある活劇など、娯楽作品として愛好される要素をふんだんに散りばめながら、主人公ピョートルの激動の日々を劇的に描いています。
ジャンルだけでなく時代も国も相違するにも関わらず、本作との類似性を感じさせられたのはアメリカの西部劇映画です。辺境の要塞を主な舞台として、決闘や襲来する反徒との抗争や恋愛をテンポよく描く本作を読むうちに、その舞台背景もあいまって、西部劇を観ているような感覚がありました。
もう一点を申し添えると、反徒を率いる敵軍の将として登場する実在の人物であるプガチョフについては、単なる悪役としてではなく特別な存在として奥行のある描かれ方をしており、最終盤に彼が見せた振る舞いが非常に印象に残りました。『プガチョーフ叛乱史』も著したプーシキンにとって思い入れのある、特別な存在だったのかもしれません。
- 感想投稿日 : 2020年9月18日
- 読了日 : 2020年9月18日
- 本棚登録日 : 2020年9月18日
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