
酒乱の父に苦しめられた子供時代、学校でのいじめ、ブラック企業での就労と貧困、自殺未遂、精神病院への入院、生活保護受給、と著者自身が「苦労のフルコース」とする半生を振り返るエッセイです。全五章に分かれていますが、それぞれの体験が均等に記録されているわけではなく、自殺未遂を絡めた精神疾患の話題がもっとも多く、次いで父の人物像を中心に過去の家族の様子について紙数が多く割かれています。
まず全体としては、過去の体験を綴ることがベースとなっていますが、ところどころで有名な事件やTVドラマにも触れて、個々の経験を社会問題として回収しようとする流れが見られます。ただし、社会問題につなげるための考察はありきたりで、体裁を整えるための蛇足にも感じました。ひとつひとつの問題だけでも多くの著書や研究の対象となる分野だけに、雑な一般化は逆効果にも思えます。文章そのものは、良く言えばわかりやすく親しみやすく、悪く言えば幼く、一般のブログに近いと思います。
著者自身の経験から印象的だったのは、直接関わった精神病院の看護師と生活保護ケースワーカーについて、それぞれ本来の職務を果たしていないとしたうえで、患者や受給者の尊厳を無視していると、はっきり否定的な見解を示していることです。この点については別途、詳しく他の当事者の声やケースワーカーと看護師側の意見や事情も知りたいところです。また、入院者のほとんどが普通にしか見えなかったという所感やそこでの扱いなどから言及される、日本の精神病院についての問題は他の著書でも読んだ内容と重なりました。著者自身の経験から引き出した知見としては、自殺未遂から回復すること自体が人生の目的となってしまうことや、父の飲酒は孤独から逃れるためだったとする指摘に、空虚さを回避する代償にマイナスの要素を取り込むような人の在り方について考えさせられます。
読書の動機は、東畑開人さんの『居るのはつらいよ』で著書の他の書籍に触れられていたこと、そして自己責任を追及しがちな風潮への疑問から、「みんな自己責任ですか?」とする帯の問いかけへの同調もありました。通読した感想として、先に述べた安易な社会問題への言及も含めて著者の言葉に引っかかる部分もそれなりにありました。本書のまとまりのなさは、書籍として結論を提示していても著者にとっての苦悩は本書刊行時点も進行形であって、実際には納得できていないことが多々あるところによるのではないかと勝手ながら推測しています。
- レビュー投稿日
- 2020年11月24日
- 読了日
- 2020年11月24日
- 本棚登録日
- 2020年11月24日