本書は、受験などで力を発揮するような受動的に知識を得る「グライダー」型の能力と、自分自身でものごとを発見・発明する「飛行機」型の能力を比較したうえで、「グライダー兼飛行機」になるために何を心掛けるかを考えるためのものだと宣言するところに始まります。とはいえ一冊を通して一塊の思想を伝授するといった趣向ではなく、一話完結のエッセイ形式で進行するため、目次等で気になった部分だけを抜き出す読み方に適しています。
内容については、仮に現在の流行りの言葉で呼ぶならば、"思考のライフハック"とでも表現できる、考えることにまつわる助言やコツともいうべき情報が紹介されています。そんな数々の知見を一概に要約することは難しいですが、雑にまとめてしまうなら、力押しではなく「押してダメなら引いてみろ」に類する発想による思考法と言えます。そのような主旨である本書のなかで、たったひとつ重要な知見を挙げるとすれば、やはり複数の章にわたって最も多く紹介されている、「忘却」が結果として「思考の整理」を導くというアドバイスであり、これによって本書の位置するところを大まかにイメージして頂けるのではないでしょうか。
本文で取り上げられる思考するものの対象としては、著者が英文学者であるだけあって論文の執筆が例として頻出しており、「ものを書くのは人間を厳密にする」という言葉にも表れるように、読者のメインターゲットは文筆を職業や学習のために必要とする、もしくは志す人々にあると言ってよいでしょう。具体的なテクニックについては、スマホどころかコンピューターも一般家庭に普及していない時代だけあって、スクラップブックやカード・ノートの利用法といった今となっては参照されがたいであろう情報も存在しますが、同時に刊行時点では未来の話である、コンピュータの普及によって従来の仕事が奪われる社会を予見するなど、いまだからこそ光る部分も存在し、見所のひとつでもあります。
実は通読したうえで、本書の内容をさほど目新しくは感じなかったのですが、40年近く前に刊行され源流となった本書にある知恵の多くが間接的に伝わった、または常識として定着しているからこその感想かもしれません。
- 感想投稿日 : 2020年9月23日
- 読了日 : 2020年9月23日
- 本棚登録日 : 2020年9月23日
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