名探偵カッレとスパイ団 (岩波少年文庫 123)

  • 岩波書店 (2007年5月16日発売)
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感想 : 16
5

このシリーズ、カッレ君が活躍する事件の方はどんどんエスカレートしていくんですよね~。  もちろん犯罪は犯罪であって、青島刑事(← かなり古い?)じゃないけれど、「事件に大きい小さいはない!」んだけど最初の「名探偵カッレくん」の事件はせいぜいがコソ泥だったのが、第2作「カッレくんの冒険」では殺人事件だし、第3作「名探偵カッレとスパイ団」では産業スパイときています。

そしてつくづく感じるのは、カッレ君の名探偵ぶりもさることながら、エーヴァ・ロッダの「事件まきこまれ体質」とでも呼びたいような事件を引き寄せるパワーみたいなもの。  もちろん彼女の責任ではないんだけど常にトラブルの中心にはエーヴァ・ロッダがいます。  第1作では犯人がエーヴァ・ロッダのおじさんだったし、第2作では殺人事件直後の犯人の唯一の目撃者が彼女でした。  そして第3作では彼女がたまたま母性本能をくすぐられちゃった相手が産業スパイ一味の人質になる・・・・と。  

しかもその拉致現場をたまたま見たのみならず、一緒にさらわれる道をエーヴァ・ロッダが自ら選ぶわけで、まさに「事件を呼び込む女」そのものです(苦笑)  でも、そうやって考えてみるとこの一連の物語、実は時代を変えた「騎士道物語」と呼んでもいいのかもしれません。



この2作品に共通している点に、「殺人事件」とか「産業スパイ事件」という社会的にも大きな事件とカッレくんたち仲良しグループが夏休みの遊びとして興じている「バラ戦争」がほぼ同じ比率で物語に出てくるところが挙げられると思います。  そして、その「バラ戦争」で培われた機転の利かせ方、通信手段、身の処し方等々が「殺人犯」や「スパイたち」との追いつ追われつの中でしっかり生かされ、彼らが何とかサバイブできる素養となっているところが素晴らしい!!

「バラ戦争」の中で万が一白バラ軍の誰かが赤バラ軍の捕虜になってしまった際に発する緊急信号、それを味方がキャッチしたことを伝える応答信号、敵が目の前にいる時であっても秘密のメッセージを敵にわからないように味方同士で伝え合う山賊言葉・・・・・。  挙げればキリがないけれど、それらが見事に役立っています。  

まあ、そこがホッとするところでもあり、嘘っぽいところでもあるわけですが・・・・・(苦笑)。  でも、彼らが大事件に巻き込まれハラハラさせられつつも読者にどこか安心感を与える要素にもなっているわけで、ドギツサやショッキングさで人を釘付けにする昨今の表現手法よりは品格のようなものを感じるのは KiKi 1人ではないのではないかしら。

と同時に、やっぱり子供たちの遊びというのは彼らのように何もないところで自分たちの創意工夫だけが全て・・・みたいな面もかなり必要だよなぁと思わずにはいられません。  KiKi 自身もゲーム大好き人間だし、どちらかと言えば「やりこみ派」なのであんまり偉そうなことは言えないけれど、ゲームに興じている際にふと思うことがあるんですよね。

「あ、これ、遊ばさせられてるな」

ってね。  もちろんゲームの中であれこれ冒険して、迷子にもなって、戦い方も相手によってあれこれ試して・・・・というのはあるけれど、大筋は他人が創造した世界の中で、他人が考えたストーリーに沿って、他人が考えたボス敵攻略法を探しているだけ・・・・・みたいなところもあるわけですよ。  そういう遊びの中からは仲間内だけの暗号だとか、本当の意味で自分の身に何らかの危機(もちろんそれはカッレくんたちが遭遇するような大事件ではなく)が迫った際に、何ら応用が効きません。

遊びの中で身についたものほど、自分の実になる物はない。  

そんな想いを深くさせてくれる作品だったと思います。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 岩波少年文庫
感想投稿日 : 2014年11月10日
読了日 : 2014年11月8日
本棚登録日 : 2014年11月9日

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