ソートン・ワイルダー戯曲集 2

  • 新樹社 (1995年5月1日発売)
4.33
  • (1)
  • (2)
  • (0)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 6
感想 : 1
4

前言撤回。ワイルダーは「状態の戯曲」だ、むしろ「存在の戯曲」と呼ぶべきか。
異化を常に喚起し、同化を拒む点はブレヒトに似ている。ホメロスや創世記の引用、戯曲の内容としての人類史が『フィネガンズ・ウェイク』『ユリシーズ』とも。
驚きとしての演劇手段。この作品では、劇中劇があるが、外枠の演劇とその中に含まれる演劇がほぼ同じ大きさなのが骨子。
また、演劇においては、「現在」こそが栄光だというのがワイルダーの信念。
例えば、朗々と台詞を語っていた俳優が突然絶句した瞬間のような、劇場全体を覆う凍りついた刹那。舞台も客席も時間が止まってしまったような瞬間。それがワイルダーのいう「現在」であり、彼は「現在」を人工的に生み出している。
戯曲の内容は、人類史。ゴーギャン風に言うと『我々はどこから来たのか、我々は何者か、我々はどこへいくのか』
矛盾そのものの総体としての人間の劇化である。人は生まれ、死に、その繰り返しを続けてどこへいくのか。
人間には、完璧を求める要求とそれに応えようとする指向性がある。同時に、人間にはその実現に背を向ける要素も兼ね備える。
その相反する葛藤の中で、人類が生き延びていくこと、その存続性自体が戯曲の主題の一。
太陽が昇ったことをもって、特別会議を開催し、世界の終わりを24時間だけ延期するという冒頭は、『わが町』の主題を思わせる。
ワイルダーの戯曲は、読んでいると観たくなる・・。

読書状況:未設定 公開設定:公開
カテゴリ: 文学
感想投稿日 : 2008年8月10日
本棚登録日 : 2008年8月10日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする