借りたもの。
脳科学の発展をひも解きながら、人間の心を解き明かそうと、現在解っている事を解説した本。
著者は特に、コネクトーム――ニューロンの接続について言及。
脳科学に関する情報が充実している。
認知症、心理学・精神医学から人工知能に至るまで、その言及は多岐にわたる。
そこに何が「わたし」をつくり出しているかを明言はされていない。
ただ、あらゆる可能性と解っていることですら限られた統計の結果にすぎないということだけだ。
一般人が漠然としか解釈していない「脳科学」の原理を丁寧に解説している。
天才と呼ばれる人々は平均的な人間の脳と何が違うのか――質量か、ニューロンの数か、その配線が多岐に渡っているのか――?
脳科学の歴史、骨相学による脳を質量から読み解こうと試みたり(人相学みたいなもの?)、外傷性の精神疾患患者や幻肢という現象から大脳皮質の箇所によって身体の制御など司っている場所が違うこと……
表面的な人間の心身の現象から統計的に導き出された結果に始まり、現在の電子顕微鏡や医療機器の進歩により、生体脳の反応を見れるようになったが、未だに人間の脳の全容を解明することはできていない。
斎藤環『関係する女 所有する男』(http://booklog.jp/item/1/4062880083)でも、脳の構造に性別差が無いと言っていた。
脳が実に複雑な“森”であるということ――
たとえばニューロンの伝達は、電気信号だけでなく化学物質(アドレナリンとかドーパミンとか)も関わっていること、遺伝的な疾患があると懸念されても脳はそれを別の経路を用いて補おうとすること等……
そのメカニズムの多様さと人間が知っていることの少なさに驚愕する。
人工知能への言及には、それを通して人間の“心”――脳の成り立ちがどのようになっているのかを探求している側面がある事を強くする。
著者の文章には、神話のエピソードの引用や文学的な表現が多く、中世の学術書を読んでいるかのようだった。
それは後半の、コネクトミクスによる脳の拡張や、SFっぽい(むしろそれを目指している?)死・自我の定義など超越する可能性を仄めかす文脈にも繋がっている印象を受けた。
- 感想投稿日 : 2016年5月27日
- 読了日 : 2016年5月27日
- 本棚登録日 : 2016年4月30日
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