本著はビジネスマンやジャーナリストがメインとなって執筆しているため、内容は学問的なものではない。しかし、その分中国でブログやtwitterを媒体として有名になったオピニオンリーダーの主張や中国のメディアが実際使用者目線でどの程度規制されているのか、さらにはどのように規制をかいくぐるのかなど学者の論文ではなかなか触れられない内容が盛り込まれている第2部「中国ネットへのアクセス法」は軽く読めて面白かった。理論面となる第一部「社会を変えるインターネット」にはあまり新鮮さを感じなかったものの、国内世論を利用する一方で抑えきれなくなってしまっている部分が所々に垣間見られる中国を考えていく上で実際に現地のインターネットユーザーがどのような興味を持ってどんなサイトをどのように見ているのかを把握するのは重要なことなのかもしれない。

2011年3月5日

読書状況 読み終わった [2011年3月5日]
カテゴリ 地域研究

日本における墜落の危険性や汚染の問題などもひっくるめた米軍基地の騒音問題に関しての著書。
2010年は普天間基地の問題がメディアを賑わせたが、本著が主に研究対象としているのは先行研究が多く存在する沖縄ではなく日本において最も人口が密集した地域に存在する厚木基地。基地の中から外側を見ると金網一枚挟んですぐに一般の民家や相鉄線の線路などが見える立地で、毎日ジェット機やヘリコプターの飛行訓練が行われている。
自主防衛力を持たない日本にとって、米軍基地は防衛の要であり基地の撤退や削減は現実的ではない。しかし、一方で地域住民への爆音の影響は計り知れないものがあり、単に「地域のエゴ」としては済まされない状況になっている。二つのそれぞれに頷ける、しかし全く異なる次元での問題は決して交わることはなく、だからこそ住民側が騒音問題についての訴訟を起こした時は訓練回数の削減など問題の発生源への措置はなされずに日本政府が過去の問題についての賠償金を払うという落としどころでの判決が慣例化している。
どの米軍施設も近隣住民との協力・信頼醸成は図っているが、その根源にある問題は米軍基地の撤退が全く現実的でない以上、簡単には解決できない。著者は問題点をドイツやアメリカと比較しながら受苦圏の固定化や格差、日本政府と米軍の関係性などに求める。秩序のあり方が目まぐるしく変化していく冷戦後の東アジアにおいて、近い将来に著者が提示した騒音問題の背景にあるものが別の、国民全体に影響を与えるような問題として顕在化する可能性も大いにあり、この問題は日本の防衛の基礎をどこに置くかという前提は常に意識しつつ、ローカルなレベルだけではなく国全体としてのイシューにしていかなければならないものだと感じた。

2011年3月4日

読書状況 読み終わった [2011年3月4日]
カテゴリ その他

台湾が清朝の統治下に置かれた17Cから陳水扁が政権を握るまでの台湾の歴史を順に追っていく著書。

日本による植民地化、その後の国民党との確執、国共内戦後の本省人と外省人との省籍矛盾など複雑な問題を抱える台湾では、当初は中華民国としてのアイデンティティーを国民党が醸成しようとしていたが、次第に蒋経国や李登輝によって台湾の「台湾化」が進められていった。しかし、共産党中国との関係性の中で国民レベルでも政治家レベルでも台独を声高に叫べないという実情があり、台湾を語る上では特別な想像力が必要となる。その想像力を養うためには、台湾をその400年の歴史の直線的な文脈の中で理解しなければならない。李登輝の人生が体現するような戦後の台湾の国内事情や分裂する国民感情を解きほぐし、反中の裏返しとしての親日に素直に喜んだりそのはっきりとしない対中政策に首を傾げるだけではなく台湾理解により深みを持たせることが何よりも大事なのだろう。本著はただ歴史的事象を羅列するだけではなく、その本質へのヒントを読者に与え台湾理解への重要な足がかりを提供してくれる。

2011年3月1日

読書状況 読み終わった [2011年3月1日]
カテゴリ 地域研究

日本は排他的経済水域の面積が世界6位であり、また輸入の99%を船舶に頼り海賊行為などに対する安全保障・国際協調に関しても積極的にイニシアティブを取ろうと努力する海洋国家である。

海洋管理制度、海洋政策、航行安全施策の費用負担などに関する検証を読み進めていくと、そこにあるものは日本人にとってとても身近であると同時にほとんど知識が共有されていない疎遠なものであることに気づかされる。200ページたらずの短い本だが、海洋についての様々な事柄の制度化というまだ世界的にも本格的に始動したばかりのトピックについて個々人はどのように考えていったら良いのか、その糸口を与えてくれる入門編としてはおすすめ。

ただし、内容はマラッカ・シンガポール海峡での海賊問題に偏りすぎており、便宜置籍船の問題や海賊行為の被害にあった人質の身代金を誰が負担するか等々、それ自体はとても面白いのだが「海の政治経済学」と銘打ってある割には資源やシーレーン確保に対する各国の意図など他の重要な争点に関しての内容があまりに薄すぎるのではないかと感じた。

2011年2月27日

読書状況 読み終わった [2011年2月27日]

アメリカの歴史家、J.K.フェアバンクが1971年に出した「The United States and China」の和訳。原題を直訳すると『アメリカと中国』というタイトルになるのだが、敢えて和訳版のタイトルが『中国』となっているのは、本著がアメリカ人の中国理解を助けるだけではなくおそらく世界中の誰が手に取っても意義のある示唆に富んだ内容となっているからである。

本著は上下巻の構成になっており、前半部では中国が長い歴史の中で培ってきた保守性の根源をその農業形態、文化と一致する形でのナショナリズム、儒教、官僚主義とそれに伴う腐敗、地方の行政制度などに求め、その保守性がどのように康有為、孫文、蒋介石などが行おうとした改革を進める上での高い壁となったかが考察されていく。後半部では、毛沢東率いる中国共産党がどのようにして中国に根付いた政治文化を打ち破り全体主義を浸透させていったのか、またその統治の限界はどこにあるのかという部分に焦点が当てられる。

本著の初版は1948年に出版され、現在手にすることのできる1971年に出されたものは第三版となる。必然的に内容は西洋の衝撃から文化大革命までとなり、この本が出版された頃はもちろんまだ中国は改革開放による経済的プレゼンスは発揮しておらず、アメリカとの国交正常化どころかデタントすら経験していない。しかし、本著が中国を研究する上で外せない名著としていまだ愛されているのは、現在まで続いている理解しづらい共産党の支配や中国人の政治に対するメンタリティーの根源にあるものがとても深く研究されているからであろう。また、内容だけでなく、著者の学問に対する真摯な姿勢は地域研究を志す人間にはとても良い刺激になるに違いない。

2011年2月26日

読書状況 読み終わった [2011年2月26日]
カテゴリ 地域研究

『アジア太平洋の重層的な地域制度とAPEC』菊池努、『グローバリゼーションとアジア太平洋』山本吉宜、『アジア太平洋地域主義の特質』大庭三枝、『アジア太平洋諸国経済の相互依存関係と電子機器産業』熊倉正修、『不可欠なパートナー、両義的なモデルとしての中国』バリー・ノートン、『ASEANの変容と広域秩序形成』山影進、『オーストラリアの「アジア太平洋共同体」構想』福嶋輝彦、『太平洋投書諸国と環太平洋』小柏葉子、『韓国の地域外交とアジア太平洋』李鐘元、『アジア太平洋地域統合への展望―台湾の視点からー』呉栄義、『中国のアジア地域外交―上海協力機構を中心に―』毛里和子、『アジア太平洋とロシア』河東哲夫、『アジア太平洋地域と中南米―メキシコ、チリ、ペルーの視点を中心に』細野昭雄、『アメリカはアジアに回帰するか?』T.J.ペンペル、『日本外交におけるアジア太平洋』田中明彦という構成。

環太平洋協力構想を発表した故大平首相の西端100年を記念して渡辺昭夫、毛里和子、山影進といったアジア太平洋地域を研究対象とする著名な学者が集まり編集した本著。2010年に発刊されたこともありオバマや民主党政権まで視野に入れてアジア太平洋協力について検証されており、この手の一章20ページ程度の小論文集としては非常に読み応えがある。経済相互依存関係の進展により一体性の低いといわれるアジアにおいても地域統合が進んでいるという一般的な議論には再考の余地があるとする熊倉や新たな大国モデルとしての中国を説いたノートン、しばしば脅威としての中国の象徴とされてしまうSCOについて検証した毛里など、個々の論文としても面白いものが多い。
ASEAN以外にまとまった機構をもたないアジア太平洋の地域主義においては、アメリカの問題、ナショナリズムの問題、意思決定方式の問題、アジア太平洋なのか、東アジアなのか北東アジアなのかという問題など、さまざまな課題が山積みになっている。日本もAPECの例を見ればわかるように形成過程においては一歩間違えるだけで地域的機構を台無しにしてしまうだけのポテンシャルを持っているにも関わらず地域主義に対する姿勢が一貫せず、今後は錯綜する各国の意思や利益をより体系的に考えていく必要がある。地域主義はより広範な利益や平和を実現する積極的な意味と既存の秩序の代替案としての消極的な意味を合わせもっており、経済的利益やアメリカとの関係、中国の位置などを考えるとさまざまな場で議論されていくべきものであり本著はそれを個人個人が考えていくためのツールを提供してくれる。

2011年2月18日

読書状況 読み終わった [2011年2月18日]
カテゴリ 国際政治

内容は、山本吉宜『総論』、滝田賢治『アメリカの安全保障政策の展開とアジア太平洋』、梅本哲也『不拡散、軍備管理に関する米国外交の"変調"』、古城佳子『米中関係―アメリカからの視点』、橋本毅彦『中国の核兵器開発とアメリカ―コックス報告とその批判をめぐって―』、倉田秀也『朝鮮半島とアメリカ』、山影進『東南アジアとオセアニアの安全保障』、木畑洋一『アイデンティティの模索と安全保障―アジア太平洋におけるオーストラリアとニュージーランド』、菊池努『アジア太平洋の制度のネットワーク―地域制度と制度間の関係―』、恒川恵市『アジア太平洋地域の「非伝統的安全保障―麻薬対策における日米の役割―』の全10章。

アジア太平洋の安全保障は冷戦終結後もアメリカ中心のハブ・スポークス構造によって支えられてきた側面が強く、二国間関係を見ていくうえでも実質的にアメリカとの三国間関係を検討していく必要があり、だからこそ日本にとってもミドルパワー論などが意味を持ってくる。様々な観点から、主にブッシュ(父)、クリントン、ブッシュ(子)の時代のアメリカとアジア太平洋の関係を検証していく本著は、国内世論・国際制度・二国間関係・時代背景などを包括的に網羅していきながら立体的にアジアの安全保障を捉えていく視座を与えてくれる。しかし、個々の章に着目すると、一章20ページ強と短い上にどれも盛んに議論されているトピックであるため正直内容が他の同じトピックを扱う図書と比べて有用であると言えるほど掘り下げられているとは思えない。

2011年2月12日

読書状況 読み終わった [2011年2月12日]
カテゴリ 国際政治

書名通り、中国をめぐる安全保障について様々な視点から紹介している著書。
編者も言っているように、内容は手広く中国に関連する安全保障についての理解ができるようになっている入門編。中国を囲む各国との関係や戦略から始まり、中国の軍事ドクトリンや党軍関係、さらにはC4Iや軍事ビジネスなどのコアな分野まで触れている。現在の日中関係においては、報道に踊らされるままに中国を脅威として扱わないために、また同時に楽観視しすぎないために、中国の意図や軍事的な状況をしっかり把握していくことが必要である。中国はかなり戦略的に各国の視線を意識しつつ行動する国家であると同時に、日本で言及されることの少ない一種の"弱さ"を内在している。安全保障面では、台湾・アメリカ・朝鮮半島・インド・日本などに囲まれており、また財政的・技術的に限界があり国際社会からの協力も満足に得られない状況下で長いスパンでの積み上げを行っている時期なのであろう。日本は安全保障の問題になると戦後の分裂した複雑なイデオロギーの問題が絡みがちだが、防衛のためだけではなく協調のためにも、本書で扱われているトピックは真剣に研究していかなければならない問題だと考える。

2011年1月14日

読書状況 読み終わった [2011年1月14日]
カテゴリ 国際政治
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