一組の男女が若くして深く愛し合うも少年を突然の不条理な死が襲い、二人は分たれる。少年の死を境に少女もまた生気を失い、生きながらにして死んでいるような影の薄い存在になる。時を経て、なにかのきっかけで少女の命が失われた時、二人は再開を果たす。この展開はノルウェイの森にもあった展開。
少女は結果的には少年の後を追って死ぬこととなるがその死のタイミングは一種、運命的なものに決められていてそれまでは少女は(本人としては無意味に)生き続けざるを得ない。悲しみは悲しみのまま、損なわれた心は損なわれたまま、受け入れる強さを持つ女性の不思議な魅力(同時に危険でもある)はノルウェイの森の直子なり、本作の佐伯さんなり、色褪せることがない。
下巻のナカタさんと星野くんの旅は悪しきものの住む異世界への扉を開け、そして時がくればその扉を閉める旅に他ならない。そしてこの扉を閉めるには誰かの命が代償として必要となる。このモチーフは騎士団長殺しに繋がっていくものだろう(異世界との交通が生まれる村上作品にはありがちな展開なのかもしれないが)。
終盤のメタフォリカルなカフカ少年の旅の意味を深く考察することはできなかったが再読の機会に譲るとしたい。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2021年2月7日
- 読了日 : 2021年2月7日
- 本棚登録日 : 2021年2月5日
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