女のいない男たち (文春文庫 む 5-14)

著者 :
  • 文藝春秋 (2016年10月7日発売)
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女のいない男たち
一人一人異なるなんらかの理由で女性に去られてしまった男たちを描いたリアリズム短編集。浮気というよりは人妻と独身男性の不倫多め。感情を大きく揺さぶる喪失を描くには一番向いている構図なのだろう。

ドライブマイカー
家福の立場から見れば妻の不倫相手であった高槻に対してその凡庸さを認めて、幾ばくか見下す気持ちもあっただろう。だからこそ、妻がなぜこんな平凡な相手を選んだのかという疑問が家福を切り裂く。高槻が中々の人物だとしてもその非凡さゆえに家福は劣等感を感じるはずだ。なによりも彼にとって辛いのは今となっては妻にそのことを問いただせないことだろう。家福は深く妻を愛していたならば「致命的な盲点」を解消するために妻の内面にずかずか入り込んでもよかったのではないかと思う。
この短編を原作とした同名の映画が上映中なので見にいくのが楽しみ。

イエスタデイ
フラニーとズーイの関西弁訳なんて出たら買うに決まってる。ていうか村上春樹は関西弁訳を出すべき笑。

独立器官
最初タイトルだけで想像した時、本当に下世話な想像だがダメだとわかっているのに欲の思うままに道ならぬ恋に走る男の話、いわば独立器官たる男性器に支配された男の話かと思った。物語の冒頭、その想像は間違っていたかと思いきや、、最後まで読むとあながち間違っていなかったかもしれない。

シェエラザード
ピロートークで話す内容が面白すぎて、また会いたくなる主婦の話。ヤツメウナギになったつもりで石に吸い付き、水草に隠れて、ゆらゆらとしながら読み進めた。かなり好き。

木野
根津美術館の裏に小粋なバー「木野」を開いた男の話。暴漢を10分足らずで始末する寡黙な常連客のあまりまではピーターキャット時代の村上春樹の実話かと思いきや、、、。
ハリーポッターの分霊箱のモチーフが蛇にまつわる神話で既に存在していたことを初めて知った。蛇は人を導く役割を果たしている。両義的に。「誰にとっても居心地のいい店」という言葉も両義的に捉えれば木野の心の空白を埋めようとして、善きもの(猫やなじみの客)も悪しきもの(蛇)もやってくるということだろう。悲しみに対して、空虚な気持ちを抱き続けるのではなく、無加工の悲しみをそのまま心の空白に当ててあげる。悲しむべき時に悲しむのもとっても大切なことだ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2021年9月14日
読了日 : 2021年9月14日
本棚登録日 : 2021年9月14日

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