【粗筋・概要】
著名な法学者である末弘厳太郎が、大正11年から昭和26年の間に発表したエッセイを6編収録した法学入門書。
I
役人学三則
役人の頭
II
嘘の効用
小知恵にとらわれた現代の法律学
III
新たに法学部に入学された諸君へ
法学とは何か――特に入門者のために
【感想】
刑事訴訟法の福井厚先生が授業で推薦していたので読んでみた。収録されているエッセイの中でもっとも古いもので80年以上前のものがある。にもかかわらず、平易な口語体で書かれているので古さを感じず読みやすかった。
文庫本の帯には「官僚、官僚志望者必読 役人出世マニュアル?!」と書かれ、巻末の編者・佐高信による解説のタイトルが「“役人病”に対する解毒剤」であることから、本書は役人や官僚制に対する批判的エッセイ集のような印象を受ける。しかし、実際に読んでみると、決してそれだけではなく法学を勉強する学生向けの法学入門書であった。
著者は判例研究の重要さを主張し、その第一人者と有名である。戦前に発表されたエッセイに「ケース・メソッド」とよばれる法科大学院で採用されている教授方法が何度か紹介されている。著者の先見の明と日本の法学教育の進歩の遅さに驚いた。
「イギリスの諺に『よき法律家はあしき隣人なり』という言葉があるそうです。(中略)法律を知っている者はとかく法律をふりまわしたくなる。『常識』と『良心』とに従って行動することを忘れて、法律を生活の標準にしようとします。その結果、彼はついに『あしき隣人』となるのです。」(P36)と、著者は法律を学ぶ者に対して戒める。私は、これは本書に通底する重要なメッセージであると感じた。法曹を目指す一人として、このことを忘れずにいたいものだ。
- 感想投稿日 : 2011年6月19日
- 読了日 : -
- 本棚登録日 : 2011年6月19日
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