The Complete Maus: A Survivor's Tale

  • Pantheon (1996年11月19日発売)
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感想 : 2
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ポーランドで暮らすユダヤ人の父と母を持ち、アメリカの国籍を持つ作者が、アウシュビッツを生き抜いた父親の体験記を英語で書いた漫画。

この作品の中では、ユダヤ人はすべてネズミの頭と人間の体を持った姿で描かれる。

夜行性で、暗く汚い場所を這い回るユダヤのネズミ達。
どんなに逃げ回っても、ナチスの月明かりで照らされて、ドイツ人のネコに捕らえられてしまう。

ヒトラーは、資本主義の象徴であるミッキーマウスを酷く嫌っていたという。
ネズミという忌み嫌われるべき存在から、「ネズミ性」を引き剥がして、キャラクターとして愛されるようになったミッキーマウス。それに対して、キャラクターから、暗い場所を這い回る「ネズミ性」を奪ってしまわず、あえて残して描かれているこの作品。

全体を通して、作者の痛烈な皮肉を感じる。


ネズミ達に必ず死をもたらす。それがアウシュビッツ。
アウシュビッツを生き抜いたという点で、生き残り達が語るアウシュビッツは、本当のアウシュビッツではないと言える。

父親が散らばったものを集めたり、何かを修理したりしながら、徐々に自分の体験を思い出しながら語るシーンが多く描かれている。
記憶を他人に伝える際には、個人の感情によって正しい記憶が捻じ曲がって作られることもありえるということを、示唆しているように思える。


漫画ながらに、ピューリツァー賞を獲得したこの作品。
新しいアウシュビッツが見えてくる。
一読の価値あり。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 海外小説(翻訳・原文)
感想投稿日 : 2010年2月25日
読了日 : 2010年1月24日
本棚登録日 : 2010年1月24日

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