芥川賞全集 第十九巻

  • 文藝春秋 (2002年12月10日発売)
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感想 : 4

2015.04.14読了「中陰の花」玄有宗久著
おがみやのウメさんと、住職則道の交流を主軸に、生を描いた作品。則道には結婚6年目の妻圭子がいるが、二人の会話を読んでいると、浮き世離れしている感があった。最後の最後にきて、あっと驚く感動があり、うるっとした。

2015.04.15読了 堀江敏幸著「熊の敷石」
フランス語の翻訳をしている主人公は、学生時代の友人ヤンと久しぶりに再会を果たす。ご自身の経験をもとに描かれた作品ではあり、フランスの風景描写は目の前にその景色が広がった。また、芥川賞選考委員は随筆ぽっさが抜け切れていないと称していたが、私小説として読め、先日読んだ「日本の近代小説」に出てくる自然主義の流れをくんだ作品ではないか、と感じた。淡々とした語り口から温かみを、内容からは郷愁じみた切なさを感じ、奥深い作品だった。

2015.04.17青来有一著「聖水」
 末期ガンで死にいく父親を息子の目を通して語っている。冒頭から出てくる聖水に、怪しげな雰囲気が漂っていたが、最後の最後まで怪しい存在だった。
それにしても、狂信ほど怖いものはない。また、名言が多く今回の引用はこの作品から。

2015.04.19読了 松浦寿輝著「花腐し」
タイトルの引用は万葉集から。内縁の妻の死別、共同経営していた友人が失踪し、莫大な借金をこしらえてしまった久谷。過去と現在をマジックマッシュルーム(今でいうところの危険ドラッグ)という小道具を使い、表現されていた。実は松浦さん、ラジオ番組を持っており、時々聞くのだが、あの穏やかな語り口からは想像できない作風に驚いた。

2015.04.20読了 町田康著「きれぎれ」
学生の時分、馬鹿にしていた吉原という男が芸術家として大成していくのに対し、落ちぶれていく主人公俺。ところどころに文芸作の一節を散りばめ、歯切れのよい文体でぐいぐい読者を引き込んでいく。長年培われてきたロックのリズムが切り刻まれており、大音響のライブハウスで音を聴いているような心地になった。その一方で、落語を聞いているような気分も味わえた。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日本文学(全集・アンソロジー)
感想投稿日 : 2015年4月20日
読了日 : 2015年4月20日
本棚登録日 : 2015年4月20日

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