あのこは貴族 (集英社文庫)

著者 :
  • 集英社 (2019年5月17日発売)
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格差社会とかなんとか、今は問題になっているけれど、それをありのまま描いています。主人公は東京生まれでエスカレーター式のお嬢様学校育ちの華子。
お見合いでは自分と同じ種族じゃないと、最初から対象外。紆余曲折の末、同じようなエリート一族の弁護士と知り合う。
その男は大手企業の創業家の跡取りで、幼稚舎から慶応で、ゆくゆくは代議士になることが運命づけられている。自分の結婚相手は当然同じ境遇に生まれ育ったお嬢様であると、なんの疑問も抱かずに決めている(らしい)。
私は地方育ちなので、こんな社会があるのかー…、間違って東京の大学なんか行かなくて良かった!と心から思った。地方から猛烈な受験勉強をして慶応に入った、準主人公の美紀が東京で苦労する様子を読むと、私が間違って東京の大学に行ったりしたら、こうなりそうだな、と切実に思った。
東京で、生まれながらに恵まれた環境に育って、高尚な文化に触れ本当に上質な料理を食べて育った人は、底辺の人の生活を想像することもできないし、もし個人的に好意を抱いても結婚相手には選ばない。人種差別とか、そういうつもりもない、議論にも上らない。最初から自分たちにとっては存在しないも同じこと。それが現実。
逆に言うと、地方都市で生まれ育った私には、華子みたいな種族の人たちは存在しないも同じこと。もし東京の大学で出会っても、友達にはなれないかも。価値観が違う。
でも、その男を通してまったく違う環境で育った二人が出会う。
私としては、華子と美紀が意気投合して友情を育むストーリーだったらもっと面白かったと思うけど、実際に意気投合したのはその中間的な友達だったのが残念。意気投合とまではいかないけど、華子は初めて自分が育った環境とはまったく違う世界があることに気づき、アラサーながら人として成長し始める。
あくまでも小説だけど、「格差社会」とか言って騒ぎ立てる政治家も、多分ほとんどの人があちら側の人たちなのよね、という社会問題に訴えかける内容でもあり、おもしろかった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説
感想投稿日 : 2019年8月24日
読了日 : 2019年8月24日
本棚登録日 : 2019年8月24日

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