子どもの頃に親が買ってきてくれて読んだことがあった。まず本の装丁が、それまで見たこともないような素敵なもので、こんなカッコいい本を読んでいるということ自体が嬉しかった。そして内容も、途中まではとてもドキドキワクワクして面白く、夜の森ペレリンのシーンを読書感想画の題材にしたこともあるくらいだ。だが後半、当時の私には、主人公が闇落ちしていくことがどうにも飲み込めず、読むのが苦行になった。結局最後まで読み切ったか途中で挫折したかは、定かではない。
そんな両極端な思い出そのままに、この本は今も実家ではなく自宅に持っている(物として好きだから)が、再読する気はない(読むのきつかったから)という、私にとってそれなりに因縁深い本だったのだが、このたびブク友さんのブックリスト「オールタイムベスト」に載っているのを拝見したのをきっかけに、一念発起、読むことにした。いや、読まずにAudibleで聞くことにした。
前述の通り装丁が外だけでなく中も素晴らしいので、ハードカバーで読むに如くは無しなのだが、まあそこは経験済みだから良しとして、それよりもかつて挫折したことや分厚さからくる「読み進める自信のなさ」を、Audibleがばっちり補ってくれたことの方が大きい。緒方恵美さんによる朗読はもはや一人芝居の域、いくつもの声色を使い分けて個性あふれる登場人物たちを生き生きと演じておられ、姿が見えるようだった。
さてさて、大人になった今再読したら、後半の闇落ちからの復活編をしみじみ堪能でき、改めて読み直す機会が得られて本当に良かった(ブク友さんありがとうございます)。特に、終盤の三、四章は全部線引きたいくらい濃厚で充実した章だなあと感じるが、同時に、ここに至るまでの道のりすべてが物語として必要だったとも感じた。ちりばめられた箴言めいた言葉に、冗長とさえ思われるほどの大冒険に、感嘆するしかない複雑な世界設定、もうお腹いっぱいである。一方には短歌や俳句のような短詩という文学の形があり、その対極にはこうした長編小説があり、それぞれに素敵だけれど今回は長編小説ならではのずっしりとした重みを心ゆくまで味わった。
以下、個人的な備忘メモ。
・アトレーユはもちろん素敵だが、幸運の竜フッフールがまたすごくいい。緒方恵美さんの声も良かった。誰に対してもわけへだてをしない幼ごころの君にもしびれる。
・バスチアンが来なくて、幼ごころの君とアトレーユがなぜ来ないかあれこれいうところは笑えた。バスチアンが決心できない理由もよくわかるし、決心せざるを得なくなった理由もよくわかった。
・「汝の欲することをなせ」「自分の真に望むことをする」とは。
・アウリンの力で望みを叶えると自分が自分でなくなる。別に元の自分好きじゃないしそれならそれでいいって思う気持ちも分かる。しかしその行き着く先が「元帝王たちの都」。"I'm OK"の地点から始めないといけない、のかな。
・変わる家でのアイゥオーラおばさんの言葉とバスチアンの変化に思わず落涙。ヨルのミンロウドでの絵の採掘、そして雪原のシーンも。
- 感想投稿日 : 2025年3月5日
- 読了日 : 2025年3月4日
- 本棚登録日 : 2025年1月3日
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