ゴリラは戦わない (中公新書ラクレ 575)

  • 中央公論新社 (2017年2月8日発売)
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感想 : 19

京大総長の霊長類学者と旭山動物園の元園長の対談。
ゴリラの人となり?は面白い。どんな動物でも自分たちの種族内でそれなりに充実したコミュニケーション手段を持っているけれど、ゴリラと人間はいとこみたいなもんだから、それなりに通じる。新しい餌をもらうと自分で食う前に飼育員に食わしてみるとか、ゴリラ同士で喧嘩して怪我すると飼育員に助けを求め、傷を見せてくれるとか。で、飼育員のほうも繁殖を成功させるためにダイエットさせるとゴリラがひもじがるのでもうイヤだ! と怒るとか。犬と人間とはまた違う、異種族間の友情。

ただ、話はだんだん説教臭くなってくる。ゴリラを見習えと言われてもなあ。ふーん、と思うところもあるのだが、イヤミに「おフランスでは~」と言われているような気分になって、素直に読めなかった。まあ、このへんは気分の問題なので、謙虚に読んだほうが得だろう。

実は本書で「動物園是か非か」みたいな議論を期待していたのだが、そういう話にはならなかった。ちらりと「動物園に反対する人たちは~」みたいな話が出て来る程度。

ぼくは動物が好きなので、自分が動物園が好きだと思い込もうとしていた。でも、つまらなそうにぼーっと立っている象や、狭い檻の中で虚ろな目で見物客を眺めているトラやライオンを見ると居心地が悪くなる。で、ふと気づいた。ぼくは後ろめたいのだ。実は旭山動物園にも行ったことがあるが、印象はたいして変わらなかった。
水族館も同じ。丸い目の魚たちは楽しそうなので見ている方も楽しいが、ペンギンやアザラシは大丈夫なんだろうか。シャチやイルカについては、本を何冊か読んで彼らの豊かな生活史を知ってから、イルカショーのそばに寄る気がしなくなった。

動物園のスタイルにもよると思う。自然への窓として動物園の果たす役割は大きいという言い分もわかる。でもぼくが象やゴリラだったら、二度と出られない檻の中で、冷暖房完備、三食昼寝つき、お抱え医師つきで一生ぼーっと暮らすより、雨に晒され風に吹かれて、腹が減ったり怖かったりしてもいいから、どこかの山や草原で、太く短く生きたいと思うのではなかろうか。
せっかくの元園長なのだから、その辺の話が聞きたかった。

原生林や大海原の只中にあって、人間のほうが檻の中に入って、偵察に来る動物を眺められる動物園や水族館があったら、ちょくちょく行くんだがな。芸達者な人間を集めて「人間ショー」をやって、面白がった動物が集まってきたら楽しい。それがあるべき形という気もする。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 自然・科学
感想投稿日 : 2017年6月25日
読了日 : 2017年6月16日
本棚登録日 : 2017年6月16日

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