監督 石井裕也
脚本 渡辺謙作
どこかのレビューで、「ひとつの小説を観終わったかのようだ」というのがあったが、まさにその通りである。観終わったあとのとてつもない満足感がそれを物語っている。
久々に最高の映画だった。何より演技派ぞろいである。演技力のある人々の映画は、観ていてすごく安心する。
映画を通じて描かれる「言葉」の持つ重み。美しい言葉遣いの人には、老若男女問わず、自然と心が惹かれるものだ。
松田龍平の作品は初めて観たが、素晴らしい演技力、以外にふさわしい言葉が見つからない。言葉が好きで、それを自分の中だけでなく外に向けて使っていく喜びに少しずつ気づいていく姿は、単純に人に心を開いていくのとはまた違った、繊細な成長であり、表現するのはとても難しいと思うが、それを完全に演じきっていた。
オダギリジョーは、どんな役でもはまるようだ。いわゆる天才役者、と呼ぶのか。食事の仕方、会話のときの目の動き、どれをとっても自然だ。
そして宮崎あおい。前回観たツレがうつになりましてでも思ったが、彼女の笑顔は本当に優しい。ラブレターについて文句を言っている時も、怒っていながらその中に愛情が込もっていて、観ていてほっとする。
それ以外にも、辞書編集部の人々、下宿先のおばさん、全員本当にはまり役だ。これは彼らの演技力もさることながら、適材適所を実現させた監督の力だろう。
些細なことではあるが、この映画を観ていて気付いたのは、時の流れを表すことの難しさである。オダギリジョーは髪をのばすことで、松田龍平と宮崎あおいは逆にスッキリさせることで、なぜか自然と表現されている。メイクというのも重要な仕事である。
「感謝という言葉以上の言葉がないか、あの世があるなら、向こうで用例採集するつもりです」、監修者のこの手紙の末尾で、涙を流さない人はいるだろうか。
最近常々思うが、いい役者の演技は、見ていて温かい。
- 感想投稿日 : 2016年2月12日
- 読了日 : 2016年2月4日
- 本棚登録日 : 2016年2月12日
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