習熟度別指導の何が問題か (岩波ブックレット NO. 612)

著者 :
  • 岩波書店 (2004年1月7日発売)
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本棚登録 : 108
感想 : 14
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(以下2004年に書いた感想)
習熟度別指導を声高らかに批判する文献はありません.この本くらいかな.
要するにタイトル通りのことを言っているのだけれど,その問題提起と提起する理由が的を射ており納得させられるものでした.
けれども,大きな問題も残ります.
本書では国別の学力データ(PISA調査結果)と,その国が採用する教育方針(習熟度別授業か一斉授業か)を比べて,一斉授業スタイルの国の方がPISAの成績が良いことを,習熟度別教育批判の核に据えているわけです.
しかしながら,ちょっと考えればわかるように,一斉授業制を敷いてきた日本でも私立学校ではモロに成績順でクラス分けしたりしているわけです.国という枠組みで論じきれるのか?疑問が残ります.
塾なんかもモロに習熟度別です(実際のところ知らないけれど).
日本には,「公立学校の一斉授業だけをうけて,私立学校に行かず,塾に行かず,家庭教師も頼まない」といった私のような人間は非常にレアなのだと思いました(ちなみにそのせいで私は基礎学力に致命的な欠陥を示すときが多々あります).
こうなってくると,習熟度別がいいのか一斉授業がいいのかという議論から「両方のいいところどり」をした折衷案がベストだという話になってくるわけです.
さらに「競争」よりも「協同」だ,みたいな話も加わって,これまた折衷案の話になるわけです.

最終的にこのような話は総じて
「教師が状況に応じてうまく対処しなければならないよね」
というつまらんところに落ちます.

ところがこういう議論は「どうすれば教師の能力を上げられるか」について,軽くふれるだけで終わります.
私としては,その先の「どうすれば教師が自分たちのスキルアップに時間を割くことができるのか」を議論すべきなのだと思います.
私はそんなことを書いている本を読んだことはありません.

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 研究関連でおもしろかったもの
感想投稿日 : 2012年2月27日
読了日 : 2004年2月27日
本棚登録日 : 2012年2月27日

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