冷血(下)

著者 :
  • 毎日新聞社 (2012年11月29日発売)
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本棚登録 : 1009
感想 : 149
5

大好きな高村薫の大好きな合田シリーズ。出た時に真っ先に購入し、じっくり落ち着いて堪能できるタイミングに読もうと待ち続け、ようやく「いまだ!」という事になった次第。そのタイミングが来るまで5年もかかるとは、買った時は思わず笑。さすがに5年も経っていた事にびっくりした。

そして、期待に違わず堪能できた。相変わらず入り込める文章。「とまれ」「否」の多用が不評のようだが、私にとってはもう、高村さんのリズムに引きずりこませてもらえて大好きでした笑。人物描写も、いつもながら深くて感情移入でき、特に犯人二人の生い立ちになんともリアリティと説得力があった。リアリティと言えば戸田の歯痛の描写も・・。これには自分までもが歯が痛くなりそうだったが、常に歯痛を堪えていると戸田のような思考回路になりそう、とこれも非常に説得力あり。

出て来る二人のように、誰しもが聞いて納得する動機を犯人が持っていたわけではない、というのは現実世界でもあるのでは、とはっとさせられた。それに気付きつつも、明確な動機を引き出そうとする刑事達の描き方も心に残った。例によって高村作品は単なる警察小説、犯罪小説ではなくて、現実世界で起きている矛盾を読み応えのある物語と魅力的な人物達を通して描いたのだと実感。人は、人の気持ちをどこまで理解できているのだろうか。人の行動には、全てにおいて明確な理由があるのだろうか。いつもはそんな事は意識しなくても良いが、人を裁く時は?もしくは、そもそも動機というものはどれだけ重要なものなのか?

それにしても、合田刑事・・。大人になってしまったのかちょっと物足りなさが。それに、加納が直接登場しないじゃないか!しかも名前すらちゃんと出て来ずに義兄、義兄、で済ませて。ただ、「自分にとっての異物」という表現でその存在の特別さはしっかり表現されてたので、まあ今回はそれで許す笑。

読了時の満足感と余韻に浸りながら、5年間暖めておいて良かったと思った。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2018年1月10日
読了日 : 2018年1月10日
本棚登録日 : 2018年1月10日

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