随分前に『命』から『声』までの四冊を買ったのだが、そのあいだに先に映画を観てしまい、ページを開く勇気を持てなかった。四冊を一気に、丁寧に読みたいと思い、今になってようやく手に取った。
知らなかった事、知らなかったからわかった事、知らなければならなかった事を『命』のなかで多く見つけ、読後、付箋とアンダーラインばかりになったこの本をしばらく茫然と見つめていた。
柳美里という作家は自身のうまれや家族について、幼少時からずっと、疑問を抱きながら生きている人だという事を本書を読むとわかる。
一切の衒いを裂いた文章は、涙を誘うようなわざとらしい工夫をされているわけでもないのに生々しく、切実だ。それは真実を画いているからうまれてくる独特なものにほかならず、フィクションでは絶対に出せない。
在日という柵は、生まれてくる子どもにまで絡みついてくるのか。在日でも韓国人だからといって、韓国のことばや文化を知っているわけではなく、だから子どもにも伝えられないという柳さんの考えを本書で読んで、日本人はなんの疑いもなく自分を日本人だと名乗り、日本国籍に入り、そもそも国籍について考えた事のない人のほうが多いのではないか、と、自戒するところがあった。
将来、子どもを産み育てるとして、私は柳さんの言うように、「子どもが十一、二歳になるまでのあいだに、なぜひとを殺してはいけないのかを、きちんと教えられる」自信がない。否、誰にでもない、私自身に、私が納得できる答を言い諭す事ができない。
私はまだ何も知らない子どもである事を、厭でも思い知らされる一冊だった。
- 感想投稿日 : 2012年2月28日
- 本棚登録日 : 2012年2月28日
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