さよならも言えないうちに

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  • サンマーク出版 (2021年9月14日発売)
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【注:本レビューは,旭川高専図書館Webサイトの「私の推薦する本」に掲載した文章を,執筆者の許可を得て転載しています】

過去に戻ることは可能なのだろうか?「あのときに戻ることができれば」、「やり直すことができるのであれば」、と誰もが一度は思い巡らせたことのあるタイムトラベル。天体物理学者ロナルド・L・マレットがタイムマシーン理論を生み出すなど、数式の上ではタイムトラベルが実現可能だとする研究も存在する。しかし、理論上、タイムトラベラーは過去を変えることができない。改変を試みても、タイムパラドックスに直面し、未来が自動修復されるからだ。結果、現実は変わらない。
それでもあのときに戻りたい。そんな願いを抱く多くの人々が、本作の舞台である喫茶店「フニクリフニクラ」を訪れる。この喫茶店には過去に戻れるという都市伝説があるからだ。ただし、制限時間、過去に戻ってどんな努力をしても現実は変わらないなど、5つのルールがある。そしてこのルールに従った全4話(1.妻が事故により遷延性意識障害(植物状態)を発症する前の時間に戻って、「ありがとう」を伝える夫の物語、2.「さよなら」を言う前に亡くなった愛犬に会うために過去に戻る物語、3.優しい嘘が原因で別れた生前の恋人に会いに行き、プロポーズを受け入れる物語、4.干渉を嫌がって追い返した数日後、震災で亡くなった父親に、時間を溯って感謝を伝える物語)が収録されている。
起きてしまったことは変えられない。それでも過去に戻ってあの人(犬)に伝えたい。その思いを遂げた人々の様子は、過去を受け入れて今の時間を大切に過ごそうと思う人や気恥ずかしくても、少しの勇気を出して相手に伝えようと思う人の背中をそっと後押ししてくれるだろう。本作は、映画化もされた『コーヒーが冷めないうちに』の続編であり、同様に過去に戻る人々の物語『この嘘がばれないうちに』、『思い出が消えないうちに』もおすすめ。

(人文理数総合科 本荘 忠大)

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感想投稿日 : 2022年9月13日
本棚登録日 : 2022年9月13日

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