藤田嗣治の随筆。
藤田がパリで、戦争で、筆で何を見たのかが鮮やかに見えてくる。
なぜか近年藤田が注目を集めている。おそらく戦争への反動から無反省的に戦争に関わったものを蔑んできた「戦後」というものを、彼を再評価することで脱却しようとでもいうのだろうか。あるいは同じように、失われた「日本」を、愛国者でありながら国に嫌われた彼を再評価することで取り戻すとでも。
近年の流行の何であれ、彼が古今東西に何を見て、その中でどう闘い、何を見出したかがわからなければ、彼を本当に評価することは難しいだろう。彼は、独自の色彩を生み出したことで知られることになったわけだが、それ以外にも彼が苦心していた点はいくらでもあったことが、この随筆で伝わってくる。また彼が「日本的」であることに強くこだわり、その表現のために歴史から自由であろうとしたこともわかる。自由の地での血肉を巡る彼の闘いのなかにこそ、彼が見ようとしたもの、あるいは彼が描こうとした「力」が垣間見られるのである。
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- 感想投稿日 : 2016年6月12日
- 読了日 : 2016年6月12日
- 本棚登録日 : 2016年6月12日
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