氷壁 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (1963年11月7日発売)
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本棚登録 : 1942
感想 : 215
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名作といわれて、未だ読んでない本が結構あります。本書はその1つでした。井上靖は中学の時の読後感想文で「あすなろ物語」を読んだり、現国の教科書で「夏草冬涛」の抜粋を読んだ記憶が薄っすらある程度でした。
最近、山岳漫画「岳」や登山家の物語に接するうちに、そういえば「氷壁」を読んでいないということを思い出し、早速チャレンジ。
結論から言えば、物語としての面白さは「中くらいかなおらが春」でしたが、処々に出てくる描写のうまさは格別でした。例えば、夫人が若い娘を見て嫉妬する様(P275)、主人公とかおるの会話で「日本一だというものを兄に教育されました」というやりとり(P395)、純真一路のかおるが主人公に好きと告白する場面での一言「兄は自分のやりたいことをやって命を捨てました。私も、自分のやりたいことをやろうと思いましたの。でも、もう駄目ですわ。私、今泣いていますけど、魚津さんのことをあきらめるのがつらくて泣いているんではありません。自分が兄のようにやりたいことをやって命を捨てられないのが悲しいんです」(P534)、魚津の死を社員の前で報告する常盤のスピーチ(P587~)、常盤が魚津と縁があった二人の女性に食事を誘うときのセリフ「彼を素直に信じられる我々だけで彼をしのびましょう」(P613)などの珠玉のフレーズが忘れたころにやってきます。小説家の構想力や筆力が基礎体力だとすれば、「魔法のフレーズ力」は生まれ持った天性のものなんでしょう、まさにそこが井上靖という作家の真骨頂だと思いました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2020年9月17日
読了日 : 2020年9月17日
本棚登録日 : 2020年9月17日

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