
料理や食べ物をスパイスのように利かせて登場させる6篇。
他の女に走った男が年上の女の待つ家に戻ってきたシーンをこんな風に描写されたら、読者はノックアウトされてしまいます。
「疲れ切った彼の身体の分だけ、いつでもあけられたベッドがある」
女の待ち方がくっきりと浮かびます。
こうして具体的に登場人物の気持ちを書かれていないのに
ひしひしと伝わってくる味わいを、随所で楽しむことができます。
男を助手席に赤のカマロ(米車)を乗り回す70歳のグランマ。
味や食に鈍感な男にうまい食事を作り続ける女。
淡々としながら深く思考し高所で作業する孤高の鳶(とび)職。
両親が離婚して戻った実家に出入りする母の男幼馴染み。
息子が思いを寄せていたのに、父親と結婚した同級生の女の子。
設定が奇抜なようでも、読むと自然。
女と男の間の思いの形は、人の数だけあるんでしょう。
そんなさまざまな形をとる女と男を前に、語り手が戸惑う様子がリアル=マジョリティの反応です。
- レビュー投稿日
- 2014年8月31日
- 読了日
- 2014年2月14日
- 本棚登録日
- 2014年8月31日
『風味絶佳 (文春文庫)』のレビューへのコメント
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