時代小説で用心棒と言えば一種お決まりの形であり、有名どころでは藤沢周の「用心棒日月抄」があるがその他にも枚挙の暇がないほどだ。(そうそう我が既読本DBによれば池永には「となりの用心棒」という作品もあるが、それは時代小説ではなかったので例外)
何らかの事情で藩を追い出され江戸の街で暮らす貧乏浪人。唯一、剣には覚えが有るので、口入屋からしがない用心棒の仕事を引受けながら日銭を稼ぐ暮し。そして時々現れる藩からの刺客。
そんな余りにも類型的な物語であるので、他の作品と差をつけ面白く読ませるのかが至難の業である。そこで重要なのは用心棒の性格付けと味の有る脇役の配置だ。これが上手く行けばもう用心棒物語は成功したも同然であろう。
で、この池永陽の描く用心棒・周介だが、腕に覚えはあり何度も切合いをするもののどう見ても凄味に欠ける優男。人も良いのか長屋のおかみさん連中に堅物ぶりをからかわれている。
そして道すがら下駄の鼻緒が切れて困っていたところから知己を得る武士の娘奈津。鼻緒を自分ですげられるようになったと変な理由で周介の長屋に幾度となく押しかける。果たして何処の娘なのか?
親代わりの元盗賊で蕎麦屋の親父を仲間の盗人に殺され一人ぼっちになった、おさき。12歳でありながら家事は万能、しかも世知にたけ、周介に対する奈津の想い一早く感付くこまっしゃくれ。
奉公人すら居ない小さな口入屋の親父。しがない用心棒稼業に安いと文句を言う周介に「くれぐれも粗相のないようにお願いします。嵯峨屋の金看板に傷が付きます。」とうそぶく訳ありそうな親父。
物語は国元の藩士仲間に誘われ黒船斬り込みを企てるところで終わっているのだが、物語はまだまだ先に続くような余韻を持たせている。池永陽は現代小説も良いがこの時代小説は長く続けて欲しいし続く予感がある。早く続編が読みたいものだ。
- 感想投稿日 : 2011年11月29日
- 読了日 : 2011年11月29日
- 本棚登録日 : 2011年11月2日
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