まだ1月も終わっていないのでやや気が早いかもしれないが、「質」そして「量」ともにまさに今年のナンバー1だ。
まずはその大胆な装丁に度肝を抜かれる。全863ページ、上下二段組という圧倒的な存在感に手に取るのをやや躊躇われるのだが、読んでみるとこの装丁で発売した作家と出版社気合いを真正面から受け止めて買った甲斐があるというものだ。流石にこれだけの分量だと面白いからと言って一気読みは難しいし、通勤電車の中でも立っているときには重すぎて持てないので座れた時だけが読書タイムになるので予想外に手間取ったが、ページをめくるのがもどかしい想いで読みとおした。
物語は九州の炭鉱町である大牟田が舞台。戦後の昭和20ー30年台初頭は石炭景気に沸き活気に溢れた大牟田の最盛期。しかし黒いダイヤと言われた石炭の地位は何時しか石油に取って替わり炭鉱にも大規模な合理化の波が押し寄せる。それに抗する組合運動は激化し、組合潰しとも言える第二組合の結成で労働争議の嵐が吹き荒れる。更に追い打ちをかけるが如く発生する昭和44年の炭鉱爆発事故。事故による一酸化中毒の後遺症に苦しむ鉱夫のその後の人生の悲哀。栄華を誇った大牟田の街も炭鉱の没落と共にさびれ時代も昭和から平成にそして現在に繋がっていくのだが、大牟田の炭鉱の栄枯盛衰とは無縁では居られない。まさに昭和から平成への大牟田史というか炭鉱の街の一大叙事詩とも言える物語だ。
そんな大牟田を舞台にする物語の主人公は大牟田で生まれ育った警察官・猿渡鉄男。父親もやはり地元で警察官だったが、ヤクザ・新旧組合員・中毒患者など誰に対しても分け隔てなく接していたことから地元では伝説の警察官として慕われていたが、あの炭鉱爆発の有った日に何者かに殺害され殉職。鉄男は警察官への道を歩むものの捜査の一環として秘密資金の謎に触れようとしたことから警察の出世コースから道を踏み外してしまう。地元・大牟田の派出所勤務などの傍流を歩むものの、駆り出された捜査の過程でもつれた糸をほぐすかのように現れる父親の旧知の仲という人物達を通して事件を解決していく。彼らとの繋がりから大牟田の歴史に向き合い、そして何時しか父親殺しの犯人探しをするようになるのだが果たして犯人は見つかるのか。
尚、冒頭で「今年のナンバー1」と述べたが、実は発売日が昨年の12月20日。なので恐らく年末にあちこちで発表されるであろう「今年のベスト本」の対象外になるであろう事が残念でならない。
- 感想投稿日 : 2012年1月30日
- 読了日 : 2012年1月30日
- 本棚登録日 : 2012年1月6日
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