スパコンとは何か (ウェッジ選書46)

著者 :
  • ウェッジ (2012年6月20日発売)
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感想 : 8
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民主党政権発足直後の大きなイベントと言えば事業仕分けであり、そこでの蓮坊議員の「二番じゃだめですか?」との発言は未だに記憶に新しいものだが、その標的であるスーパーコンピューターが本書の話題。

著者は仕分け人の一人として蓮坊議員と共にスーパーコンピュータ開発予算に疑義を唱えた方だというが、実際には初期のスーパーコンピュ-ター開発に携わり、円周率の計算でギネスにも登録された東大教授で、ある意味スーパーコンピュータに最も思い入れのある人でもある。

スーパーコンピュータは科学の発展に必須というのは著者も認めるところであるが、一方で多額の国家予算を費やすのだからそこには既存のCPUを力ずくで並列に組上げでベンチマークの計算能力で一番を目標にするだけではなく、そこに何らかに技術的ブレークスルーが伴うべきであると今回の開発計画に疑問を投げかけている。

更に、ハードだけが脚光を浴びているがスーパーコンピュータの能力を生かすも殺すも其れを動かすソフト開発の両輪が伴わなければ意味はないと嘆く。特により優れた計算アルゴリズムを作り計算能力を最大限に生かすソフトを開発するには経験が物を言う世界であり、単にメンツに拘る世界一のスーパーコンピュータが一台有るよりも、その一桁下の性能であろうとも多数台が使える環境を整えない限りソフト開発能力は鍛えられないと指摘する。また計算アルゴリズムの開発に携わる人間の教育・採用・昇進パスが日本社会には存在しないことから先行きは暗い、と嘆きは留まるところを知らない。

スーパーコンピューターが本書のテーマではあるが、一方で日本の名だたる電子機器メーカーの昨今の凋落とGoogleを始めとする世界を席巻するIT企業の興隆具合を比較するに付け、こうした苦言はより現実性と重要性を持っているような気がする。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 科学物
感想投稿日 : 2012年8月24日
読了日 : 2012年8月24日
本棚登録日 : 2012年8月17日

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