とくに気に入ったのは以下の作品。
「ローマ熱」(イーディス・ウォートン)
それぞれに娘を伴ってローマを訪れたアメリカ人の中年女性二人。若い頃からの知り合いらしいこの二人の何気ない昔語りが、思いもかけない方向に発展していく。
会話の受け手に終始していた女性が最後に放った言葉の、なんと強烈なこと。
「生命の法則」(ジャック・ロンドン)
『火を熾す』(柴田元幸訳)にて既読。
柴田訳では最後の老人の覚悟が、いささか破れかぶれというか、やけっぱちのように捉えられたのだが、こちらはもう少し厳粛な印象。
「人を率いる者」(ジョン・スタインベック)
かつて幌馬車隊を率いて大草原を横断した老人は、事あるごとに当時の話をせずにはおれない。義父に気を遣いつつもそのことに苛立ちを隠せない娘婿。
同じ話を何千回となく聞かされるのはうんざり、ということももちろんあるのだろうけれど、その話のなかに“新しい世代”への非難めいたものを感じてしまうが故の苛立ちなのかもしれない。
大移動後の生活を語る言葉をもてなかった自分、そうした自分を支えていたはずの時代の精神の終焉・・・・・それを悟った老人の悲哀が胸を突く。
そんな老人に理解を示す娘と、孫に当たる少年の子どもらしい気遣いが心に残る作品。
「スウェーデン人だらけの土地」(アースキン・コールドウェル)
シリアスな語り口の多い本編のなかで、唯一の滑稽譚。
収録作品
平安の衣 オー・ヘンリー
ローマ熱 イーディス・ウォートン
ローゴームと娘のテレサ セオドア・ドライサー
生命の法則 ジャック・ロンドン
手 シャーウッド・アンダソン
あの子 キャサリン・アン・ポーター
メアリー・フレンチ ジョン・ドス・パソス
パット・ホビーとオーソン・ウェルズ F・スコット・フィツジェラルド
ある裁判 ウィリアム・フォークナー
なにかの終焉 アーネスト・ヘミングウェイ
人を率いる者 ジョン・スタインベック
スウェーデン人だらけの土地 アースキン・コールドウェル
スティックマンの笑い ネルソン・オルグレン
- 感想投稿日 : 2011年8月29日
- 読了日 : 2011年7月15日
- 本棚登録日 : 2011年8月28日
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