マルベリーボーイズ

  • 偕成社 (2009年10月1日発売)
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感想 : 13
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これまで、ヘンゼルとグレーテル、ラップンツェル、美女と野獣といった昔話を下敷きに、新たな物語を紡いでみせてくれたナポリだが、本書『マルベリーボーイズ』は少し趣きが違う。今回もとになったのはお伽噺ではなく、自らの祖父に関する、家族内に伝わるエピソードである。

ナポリの父方の祖父が、わずか5歳の時にたった一人でイタリアからアメリカへ密航してきたこと、サンドイッチの切り売りをして、商売を成功させたというエピソードが本書の骨子となっているが、ナポリはさらに文献や実地調査を加え、1892年のニューヨークに、イタリアからたった一人で降り立った9歳の少年ベニアミーノの、生きるための奮闘を細やかに描き出している。

エリス島での移民審査、ちょっとした隙に物が盗まれてしまうような油断ならない状況、言葉の問題、ユダヤ人であることを隠さねばならないこと、そして何より無一文であること。そうした状況下で、同じような境遇の少年たちと友情を培い、商売のめどを立てていく。
この、サンドイッチ売りの商売のやり方が、商売成功の秘訣を示しているようで面白い。
すなわち、誰も気づかないところに目をつけ、新商売を始める。客のニーズをつかむ。失敗から学ぶ。敵対者の取り込み。一緒に働く者に責任をもたせ、やる気を引き出す。といったような。

目端のきく、へこたれない少年の成功譚という側面もあるが、同時に、大人にくいものにされている子どもたちの存在とその悲惨な境遇について語られてもいる。

ただベノミアーノ(アメリカではドムと名乗っている)の姿だけを追っていれば、感動的な物語といえるのだが、冒頭で、イタリアで大家族とともに暮らす彼が描かれていただけに、彼の母親のとった行動―何のつても当てもない異国に我が子を放り出す―の不可解さに、最後までとらわれてしまった。

作者後書きでナポリは、祖父の生前には、その生涯にほとんど興味をいだいていなかったこと、その話にもっと耳をかたむけていればよかったという後悔の念を語っている。
個の歴史というものは、語る意志と傾ける耳がなければ、たやすく消え去ってしまう。

  The King of Mulberry Street by Donna Jo Napoli

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 児童書
感想投稿日 : 2009年12月17日
読了日 : 2009年12月8日
本棚登録日 : 2009年12月8日

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