冒頭、主人公ジョン・グレイディ・コールの見る、馬に乗るインディアンたちの幻影の美しさに、まず心をつかまれた。とにかく全篇の自然描写が鋭く、美しい。ことに馬に関しては、なまめかしいくらい。ハイウェイを走るトラックの描写で、ああ、これは現代の物語であったと思い出す程、主人公の立ち位置が西部開拓時代を思わせる。いっさいの心理描写を廃しているせいか、16歳という年齢を感じさせないジョンの独立不羈ぶりが際立つが、時折挿まれるメキシコの子どもたちとのやりとりからは、彼のナイーブさが感じられる。特に、物語後半、牧場主の娘に会いに行く時に出会った貧しい子どもたちの一団に、メキシコに来てから自分の身に起こったことを話して聞かせ、牧童と牧場主の娘が結婚するにはどうすればいいか、子どもたちが心から心配してあれこれアドバイスを与えようとするシーンには、心和まされる。このような善意と悪徳とが混在するような(筆者が描くところの)メキシコの複雑さも興味深かった。
――All the Pretty Horses by Cormac McCarthy
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
海外の小説
- 感想投稿日 : 2008年8月25日
- 読了日 : 2008年8月25日
- 本棚登録日 : 2008年8月25日
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