哀れなるものたち (ハヤカワepi ブック・プラネット)

  • 早川書房 (2008年1月26日発売)
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本棚登録 : 152
感想 : 17
4

19世紀後半のスコットランド・グラスゴーを主な舞台とした、奔放なベラの、波乱万丈な冒険が面白くて、ぐいぐい読めてしまう。

このベラを、『フランケンシュタイン』の名も無い怪物の女性版と紹介しているレビューもあるのだけれど、手記の作者マッキャンドレスがさんざんほのめかしているのは、ベラの創造主である外科医ゴドウィン・バクスター自身も、高名な外科医であったその父親から何らかの処置をほどこされた存在である、ということのように思える。
となると、怪物が、伴侶となるべき存在を自ら造りだした物語としても読めるということかしらん。

ベラとの出会いから結婚に至るまでを描いたアーチボールド・マッキャンドレスの手記と、その内容に異を唱えるヴィクトリア(=ベラ)の書簡。
編者としての「アラスター・グレイ」は、この書簡を、“自分の人生の出発点についての真相を隠そうとする精神障害の女性の書いた手紙”と断ずるが、果たしてそうなのか。

荒唐無稽で、あり得なさそうな話と、いかにも常識的な話との間で、さてどちらが本当?と、考え始めること自体、アラスター・グレイの策にまんまと嵌ってしまったと言えるのかもしれない。

ベラ誕生の経緯やバクスターも含めた3人の関係性はともかくとして、前へ前へと進む華やかな妻と、それを陰で支える夫というマッキャンドレス夫妻の夫婦のあり方や、バクスターの善良さや女性の自立に対する先見性、世の中の哀れな人々の力になりたいというベラの決意などは、揺るがないものとして二つの物語の間から立ち現われてくるように思う。

晩年のヴィクトリアが、友人に宛てた手紙のなかで、「暖かくて何があっても揺らがない男がよかった。―(略)―私の人生を通じてそういう人はひとりだけ」と語り、自分の最期を看取らせるのがアーチー(と名づけた犬)であるというのに、ちょっとしんみりする。夫の生前は、その存在すら忘れがちだったような彼女の、夫の死後35年経っての愛の告白と思えるので。


  Poor Things by Alastair Gray

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 海外の小説
感想投稿日 : 2011年1月21日
読了日 : 2011年1月4日
本棚登録日 : 2011年1月21日

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