何とも素朴でおちついた風情のある、あたたかな作品。
原題は「カントリー・チャイルド“The Country Child”」。イギリスの丘陵地帯にある農場で少女時代を過ごしたスーザンのお話は、作者アトリーの自伝的要素が強いといわれている。
代表作として名高い「時の旅人」の背景も感じとれる一方、そうした綿密に構成された作品とは趣が異なり、かつての暮らしと密やかな思い出を採り出しては、ひとつひとつ丹精に綴っていったような味わいがある。
4マイルもある道のりを、一人で深い森を抜けて、学校まで通わなければならなかったり、厳しい自然と生活に伴う仕事に日々向き合う昔の農場暮らし。
質実ながら愛情にあふれた家族に囲まれ、しかし、心密かに古い家屋や置物、周りの木々や草花、石や動物たち、空や風、月とも語らい、友としていたスーザンのかけがいのない豊かさが、畏怖と共に淡々と細やかに伝わってくる。
イギリスの田舎の自然と風物が四季おりおり、食事や草花の描写などと、丹念に描かれており、大仰なドラマはなくとも、ほほえましいエピソード(母親に友達を呼んできてもいいと言われ、学校中の女の子を50人も連れてきててんやわんやになったり…)なども織り込まれた、実に英国的で魅力的な佳品だと思う。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
児童文学・児童書
- 感想投稿日 : 2009年2月18日
- 読了日 : 2009年2月18日
- 本棚登録日 : 2009年2月18日
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