毒婦。 木嶋佳苗100日裁判傍聴記

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  • 朝日新聞出版 (2012年4月27日発売)
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『なぜ、男たちは彼女の『毒牙』に次々とかかっていったのか?―』本書は「稀代の婚活詐欺師」「平成の毒婦」と呼ばれた木嶋被告の100日間にも及ぶ裁判の傍聴記録を筆者からの『女性からの目線』で綴った物です。

彼女の事件については朝や夜のニュース番組で断片的に少し知るくらいでありました。裁判のイラストでの木嶋佳苗の着ている服ですとか彼女の赤裸々なまでの『ヰタ・セクスアリス』についてですとか、『男性からお金をもらうのが、当たり前だと思っていました』などの発言を聞くくらいで、特に関心は払っていなかったのが正直なところでございました。

しかし、こうしてまとめられたものを読むと事件の裏にある男女の深い『業』といいますかなんと言うのか…。ノンフィクション作家の佐野眞一氏は『名前以外は全てがウソ』と切り捨てつつも『東電OLを超える存在』とうなっていた理由がなんとなく判るような気がしました。事件のあらましは肉体と結婚をちらつかせて男たちから1億円以上もだまし取り、3人の男を練炭で殺害したとして死刑判決を受けた木嶋佳苗被告。本書は彼女の100日間の裁判の様子を傍聴した記録です。

「稀代の婚活詐欺師」「平成の毒婦」と呼ばれた木嶋被告とは、どんな人物なのか。それを同じ女性からの視点を軸として裁判の様子と彼女の故郷である北海道別海市への取材を重ねた上でかかれており、すらすと読めはするのですが、男女問わず誰かもが思っているであろう疑問『決して美人とはいえない容姿で、何人もの男を手玉に取れた理由』は結局わからずじまいでありました。しかし、彼女に『籠絡』された男たちには同じ男として大いにシンパシーを感じつつも、まるで蟷螂の交尾よろしく『がんばって』いるオスを頭から食い殺すがごとく、自分の性をはじめとして料理のスキルからなにから使える武器は全て使い、『自分を大切にすることとはカネを出すことだ!』といわんばかりにキャッチセールスのクロージングのように自分と交際を迫る(お金を引き出す)手練手管の数々には、正直言って度肝を抜かれました。

さらに、北海道別海市に飛んで木嶋香苗被告家族及び18歳までの生育暦になると、『保守的で排他的で閉鎖的な環境』からなにが何でも抜け出したいという叫びにも似た欲求と家族や周囲との不協和音。そして早熟な彼女の『性』に関するうわさ…。心底彼女は生まれ故郷が嫌いだったんだなと。そこから抜け出して二度とそこへ戻らないために自分の『性』を商品化して「デイ・トリッパー」よろしく男から男へ…。というなりふり構わない人生へと突入したのではなかろうか…。彼女がとった手段に関して決して同調できませんが、おそらくはこういうことなんだろうなというのが現段階の彼女に対する『思い』です。

そして、驚いたのが『東電OL』のときもそうだったように彼女の生き方に『共感』を覚える女性が一定数存在してこと。これにはしばらくの間腕組みをして考え込まざるをえませんでした。本書の最後の方で、フェミニストで有名な上野千鶴子女史が彼女の事件を評して『援交世代から思想が生まれると思っていた。生んだのは木嶋香苗だったのね』とおっしゃっていたのがとても印象に残っております。彼女の起こした事件は今後も繰り返し扱われると思いますが、彼女への理解は別として、この本にはぜひとも一度は資料としても目を通す価値はあるかと思われます。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2013年4月12日
読了日 : 2013年4月12日
本棚登録日 : 2013年4月12日

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