ここで扱われている「和僑」とは、21世紀になってから日本人の間で作られた造語です。ここでは中国で行き、中国を喰らい、したたかに生きる人々を気鋭の筆者が追い続けた貴重な記録です。混沌がここにあります。
僕が中国に関心を本格的に持ったのは予備校時代に漢文講師の宮下典男先生の授業を受けたのがきっかけで、それから時は流れて幾星霜。日本と中国との関係が変化していく中で手にとって読んでみた本です。
ここでは『和僑』といわれる日本人たちが、中国で生き、中国で喰らい、中国を喰らうしたたかな生き方を気鋭の筆者が書きとめたルポルタージュであります。
出てくる人間もまぁ多士済々で、雲南の山村に住む2ちゃんねらー。欲望の海・マカオで「ニッポン定食」として働いていた風俗嬢。上海で日系企業の依頼で組を作ったやくざ…と規格外の人間ばかりで、読み終えたときにはあまりのディープな世界でため息すら出たのですが、彼等の『濃厚』な生き様と、それを追い続けた筆者の『執念』に感動すら覚えてしまいました。
「2ちゃんねる」に書かれた情報を元に中国の農村へと単身飛び込んでいく無茶を最初に持っていき、その雲をつかむような様子に始まり、マカオではそこに蠢いている人間から『金を儲ける』ということはいったいどういうことであるかを語り合い、マカオの歓楽街で『ニッポン定食』と呼ばれる「おねいちゃん」をやっていた『世界をまたに駆ける』風俗嬢と歌舞伎町というこれまたディープな世界でワールドワイドな『性』事情を赤裸々に語りつくす。本当にディープな世界です。
しかし、上海では『かつての日本』を形作るような福利厚生の厚い会社に勤める人間と現地の人間と積極的に交わっていく『起業家』たちとの『差異』についての考察も非常に面白かったです。
さらには日本の広域暴力団の幹部だった男が上海で現地の人間の上に巨大な組織を作り上げ、なおかつそれが『お上公認』であることに衝撃をうけ、かつて日中友好に身を捧げた女性が『ネット右翼』のような『さらば日中友好』に変じていった軌跡を追い、圧巻のラストは最初で会うことの出来なかった中国で暮らす日本人の青年との直接対決のエピソードでありました。
彼が
「日本よりも中国のほうが自由で暮らしやすいんですよ」
と語るその生活は、これまた規格外のもので、
「こういう人間がまだいたのか!」
という驚きと共に、『人に定めなし』という黒岩重吾先生のお言葉をいまさらながらに感じざるを得ませんでした。混沌を極める現代の中国。そこでしたたかに生きる日本人の存在とその息吹を、少しでも感じ取っていただければ、幸いに思います。
※追記2016年4月23日、KADOKAWA/角川書店より『和僑 農民、やくざ、風俗嬢。中国の夕闇に住む日本人 (角川文庫)』として文庫化されました。
- 感想投稿日 : 2024年9月14日
- 読了日 : 2024年7月18日
- 本棚登録日 : 2024年7月18日
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